婚約破棄前提の溺愛同居生活でイケメン副社長と××をお試し中です
第3話 ベッドはひとつ!?


〇高級マンションの最上階にある創一郎の家のリビング(夕方)



広いリビングで大きな窓の向こうに広がる都心の眺めに圧倒される花。

二人掛けだけれど三人以上座れそうなゆったりと大きめのソファに腰かけている創一郎。

くつろいでソファに座る創一郎の姿は、雑誌に載っている芸能人の写真にありそうなくらい様になっていた。



創一郎「座ったら?」



創一郎が優しく労わるような声で立っている花に勧める。



花「は、はい……ッ」



創一郎と並んで座るのがなんだか申し訳なくて、花はソファの端の方に腰かけた。

二人掛けのソファだけれど大きめにできているので、ふたりの間には余裕でもう一人座れそうなくらいスペースが空いている。



花「きゃ!?」



足首をくすぐるふわふわな感触に驚いて思わず声を上げる花。



花「猫……」



花が足元を見ると、もふもふとした白い毛に包まれた大きな猫が一匹、スリスリと身体を寄せていた。



花「相澤さんの家の猫ちゃんですか?」

創一郎「そう、ハナコっていいます」

花「ハナコ?ふふ、似た名前同士、よろしくねハナコ」



そう話しかけると、ハナコはピョイとソファに飛びのって花の太腿の上で丸くなった。



花「ぅわぁ、可愛い……」



花は嬉しそうにハナコの背中を撫でる。

柔らかく微笑む花の姿を見た瞬間、創一郎の胸をハートの矢が打ち抜く音がした。



創一郎「そうだね、凄く可愛い」

花「ぇ……」



顎に指を添えクイッと花の顔の向きを変えると、顔を寄せていく創一郎。



花(ど、どうしよう……ッ)



思わずギュッと目を閉じる花。

けれど二人の唇が重なる直前で、来客を告げるチャイムが鳴った。



創一郎「花さんの荷物かな」



創一郎が立ち上がり、モニター画面を確認する。



花(ぃ、いまキスされるかと思った……)



花の心臓はドキドキが止まらない。



ガチャ、とリビングのドアが開いて、背がスラリと高く青みがかったきれいな瞳をした明るい栗色のロングヘアの美しい人物が入ってくる。



花(ぅわ、綺麗な人……ッ)



秘書「創一郎、頼まれてたもの持ってきたわよ」



花(相澤さんの事、『創一郎』って、呼んでるんだ……)



創一郎「悪いな、助かったよ」

秘書「ホント人使いが荒いんだから」



花(ふたり、仲良さそう……)



海外モデルのように美しい秘書は花の方へ視線を向けふわりと微笑んだ。



秘書「花ちゃんよね。学校で必要な物と着替え、実家から持ってきたわよ」

花「ぁ、ありがとうございますっ」



花は荷物の詰まったバッグを受け取る。



秘書「あとこれ、スマホ」

花「スマホ?」



戸惑う花に創一郎が声をかける。



創一郎「花さん持ってないって言ってたから、それ使って」

花「ぇ、私、支払えないので使えません」

創一郎「連絡が取れないと不便なので持っててほしい。俺のわがままだから支払いは気にしないで」



花の胸がドキッと小さく跳ねる。



花(相澤さん自分の事、『俺』って言うんだ……)



秘書「創一郎と私の連絡先、登録してあるわよ。いつでも連絡してね」

創一郎「なんでお前の連絡先まで入れてるんだよ」



花(『お前』って呼ぶ仲なんですね……)



秘書「いいじゃないの。花ちゃん私の事はネグって呼んでね」

花「ネグさん、ですね。よろしくお願いします」



花が頭を下げるとネグはギューッと花の事を抱きしめた。



秘書「可愛い花ちゃん」



べりッと花から引き剥がすように、創一郎がネグの事を引っ張る。



創一郎「用が済んだならもう帰れ」

秘書「ぇーもう少し話したかったのに。まぁいいわ、それじゃ月曜に会社でね創一郎。そうそう、新商品の会議があるから試作品の感想もちゃんと考えておいてよ。花ちゃん、またね」



手を振りながら帰っていくネグを見送ると、創一郎は、はぁ、とため息をついた。



創一郎「騒がしいやつですみません」



申し訳なさそうな表情をする創一郎の姿を見た花は、慌てて手をブンブン横に振り恐縮する。



花「いえいえ、そんな事ないです。相澤さんと同じ会社の方なんですね」

創一郎「俺の秘書で、イトコでもあります」



創一郎はソファに座りながら花にも、どうぞ、と座るよう促す。



創一郎「祖父が亡くなった関係で人事に動きがあり、俺が日本本社の副社長に就任したので」



ふぅ、と小さくため息をつく創一郎。



創一郎「あいつもフランスから一緒に来たんです」



花(一緒に……。もしかしてネグさんは、相澤さんの事が好きなのかな)



花の胸の中に、得体の知れないモヤモヤした感じが広がっていく。



創一郎「花さん、明日は日曜日だけど、何か予定はありますか」

花「い、いえ、特にありません」



モヤモヤに気を取られていた花は、創一郎から突然予定を聞かれどもってしまった。



創一郎「それなら良かった。俺も明日は休みだから、必要な物を買いに行きましょう」

花「ひ、必要な物ですか?何か、あるかな……」



花(ある程度ネグさんが持ってきてくれたみたいだし)



創一郎「この家で使う物、色々買い揃えましょう。引越し祝いにプレゼントさせてください」



花(え?プレゼント?)



花は驚いてしまい、言葉が出てこない。



創一郎「とりあえず、今はベッドがひとつしかないから、買わないと」



花(ベッド?そんな高価な物を私にプレゼントする気ですか?)



創一郎「ネットでも買えるけど、ベッドは実際に自分の目で確かめて決めた方がいいから明日見に行きましょう」



他に何を買おうかな……と創一郎はロダンの考える人のポーズで真剣に悩んでる。

花はようやく少し落ち着いてきて、口から言葉を発する事ができた。



花「だ、だめです!私のためにお金を使わないでください」

創一郎「だけどベッドは必要でしょう?」



花(婚約破棄前提で一緒にいる私に、無駄なお金を使って欲しくない……)



花「もし差し支えなければ、寝る時このソファをお借りしてもいいですか?」

創一郎「ダメだよ。女の子をソファで寝かせるなんて」



花の提案は間髪入れずに却下された。



創一郎「今日は俺がソファで寝るから、花さんが俺のベッドを使ってください」



良い考えでしょ、という感じで満足そうに創一郎が花に提案する。



花「だめですだめです相澤さんがソファなんて絶対にだめです」



花は両手をブンブン振って、必死に断る。

少し悲しげな表情になった創一郎は、小さな子どもをあやすように花の頭を優しく撫でた。



創一郎「それなら仕方ないね。とりあえず俺は今夜会社に泊まるから、花さんはベッドで寝てください」



花は驚きのあまり目を見開く。



創一郎「すぐに戻ってこられる距離なので、何か困った事があったら電話して」



花(相澤さんが会社に泊まる?)



スッと花の頭から創一郎の手が離れた。



創一郎「明日は10時に迎えにくるよ。朝食はキッチンにあるものを適当に食べておいて」



そう言いながら、創一郎はソファから立ち上がる。

花は考えるよりも先に身体が動いて、創一郎の右腕に縋りついた。



花「ま、待ってください」



創一郎が、ふ、と息を吐いた。

ため息ではなく、ほんの微かに笑みを含んだ息。



創一郎「それじゃ花さん、どちらかにしよう」



花に腕をギュっと抱きしめられたままの状態で、創一郎が口を開く。

花は顔を上げて創一郎の口元を見つめた。



創一郎「俺が会社に泊まるか――」



悪戯っぽい笑みを花に向ける創一郎。



創一郎「ベッドを一緒に使うか、花さんが決めて?」



花(ベッドを一緒に……?)



一瞬、意味が理解できずキョトンとした花だったが、次の瞬間ボンッと火が点いても可笑しくないくらい、顔が赤くなった。

創一郎の腕から手を離し、自分の両頬を手で押さえる花。

そんな花の様子を見た創一郎は、子どもに言い聞かせる感じで花の頭を撫でながら話す。



創一郎「一緒にベッドは無理でしょう?じゃ、俺は会社に行くね。明日ベッドも買いに行こう」



スッと花の頭から手が離れ、創一郎はドアの方へ歩いていこうとした。

花は咄嗟に、創一郎を追いかけ彼の腕をぎゅっと抱きしめる。



花「一緒に……」



驚いたような表情で花の方を見る創一郎。



花「ベッド……一緒に、使わせてください……」

創一郎「ぇ……」



時が止まったかのように、ふたりの間を沈黙が流れた。

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