Special Edition ②

「彩葉、何してんだっ?!」
「何って、シーツの交換だけど?」
「そんなことは家政婦に任せたらいいんだ!もしものことがあったらどうするんだ」
「……大丈夫よ、これくらい。少しくらい運動しないと、体力が落ちるばかりで」
「ここはいいから、向こうで休んで」
「………」

六月に入り、新緑が眩しい初夏らしい日曜の午前十時。
珍しく朝から自宅にいる郁は、リビングで仕事をしながら彩葉の行く先々について廻っている。

妊娠32週を迎え、だいぶ大きくなって来たお腹を労わるようにしながら、広い部屋の中を行ったり来たり。
普段は夫である郁が仕事で不在のため、軽い運動を兼ねて部屋の中を行き来しているのに。
今日に限っては、最新式のレーダー搭載とばかりに、彩葉の行く先々をチェックしてる始末。

「もうっ、ずっとついて廻られると、気になって運動にならないからっ!」

妊娠初期は切迫流産の危機に見舞われたが、財前家と職場の連携によりお腹の中の胎児は無事に流産の危機を乗り越えた。
その後は長時間の執刀を控え、回診と外来、手術補助と研修医の指導と医学生の講師を主としたものに変更して貰った。

安定期に入った頃には年度末を迎え、無事に准教授に任命された。

最近は医学部の臨床医学(実習)の講師として教壇に立ち、講義が無い日は研修医の指導をしている。
万が一、産気づいたとしても職場が大学病院という事もあり、全幅の信頼を置いているのだ。

< 132 / 229 >

この作品をシェア

pagetop