アイドルなんかじゃありません!わたしの元義弟なんです!!
 一瞬驚いたように目を見開いた北川さんは、窓の外、流れる光を追うように視線を向け、ゆっくりと口を開いた。

「そうだね。短いけれど素敵な恋だったよ。ありのままの自分を受け止めてくれて、とても優しい人だった。考え方が似ていて、彼女と話すのが楽しかった。けれど、タイミングをいくつも逃して、何もかもが後手に回ってしまい、結局、彼女は他の男性の手を取ったんだ。後になって”もしも、あのとき”って後悔することが多すぎて……。さっきも言ったけど、自分の事となると上手くいかないんだ」

 そう言って、北川さんは静かに瞼を伏せた。薄暗いタクシーの中で陰影のついた綺麗な横顔は、涙こそ流れていないが泣いているようにも見えた。
 切なさが伝わってきて胸が締め付けられる。
 それなのに、私は掛ける言葉もみつけられず、北川さんの腕に手を添える事しか出来なかった。
 私の添えた手に気付いた北川さんは、心配ないよと微笑みを浮かべる。

「由香里さんとの恋を嬉しそうに語る大都さんが、とても眩しく見えたよ。それで、些細な行き違いや周りからの雑音で傷ついて欲しくないと思って、こうして、おせっかいを焼いているんだ」

「私も大都も北川さんに助けられました。ありがとうございます」  
 
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