アイドルなんかじゃありません!わたしの元義弟なんです!!

誤解です

 私たちを乗せたタクシーは、流れる光の中を走り抜け、見慣れた景色にたどり着く。
マンションのエントランス近くで、「ここで、ひとり降ります」と運転手さんに声を掛けると、タクシーが停車して、後部座席のドアが開く。
 すると、エントランスの花壇に座る黒い人影が、待ちかねたように、ゆらりと立ち上がった。

私には、その男の正体が直ぐにわかった。

「……北川さん、あの男。私に声をかけた記者です」

 開いたドアの先、マンションのエントランスに立つ男へ訝し気に視線を移す。男の様子を確認した北川さんは、外していたマスクをつけ、深く帽子を被る。

「僕も降りよう」

 タクシーの清算を済ませ、ふたり並んで降り立つと、口元をニヤリと歪ませた男がお構いなしにカメラを向け、シャッターを切った。
 カシャカシャとカメラが不快な音を立てる。
 そして、カメラから顔を上げた男は、満足気にうなずく。

「待っていましたよ。一緒にご帰還なら話しが早いや」

 タバコ臭い息を吐く男を私は睨みつけた。
 そんな私を記者から隠すように大都に扮した北川さんが抱き寄せ、低い声で警告を促す。

「いったいどこの出版社? 彼女、一般人なのにつき纏わないでくれます?」

「週刊ScoopOneの茂木です。BACKSTAGEのHIROTOさんですよね」

「人違いです。勇み足は後で後悔につながりますよ」

 
< 111 / 211 >

この作品をシェア

pagetop