アイドルなんかじゃありません!わたしの元義弟なんです!!
 私の手元にある食べかけのサンドウィッチを見た大都が、ホッと息を吐く。

「良かった。ちゃんと食べているんだ」

 調理していると匂いで気持ち悪くなることがあって、食べる前からダウンしてしまう。なので、手抜きの夕ご飯だ。

「サラダっぽいものなら匂いもなくて食べれそうだったから……。先に食べちゃってごめんね」

「食べれるときに食べればいいんだから、俺のことは気にしないで」

「ありがとう。大都の分も買ってきてあるの」

 温めて食べた方が美味しい物もある。食事の途中だったが、デリの袋に手を掛けて、椅子から腰を浮かした。

「自分で出来るから、由香里は座ってていいよ」

 大都は私の手からデリの袋をスッと受け取り、キッチンへ行く。上機嫌な大都は、鼻歌交じりにデリのパックからお皿に移し、手際よく温め直している。

 生きがいのある仕事をしている女性もいるのに、世の中には未だに、料理は女の仕事とばかり何もしない男性が多い中、このフットワークの軽さは助かる。
 お言葉に甘えて、サンドウィッチの続きを頬張った。
 程なくして温めたチキンやキッシュのプレートを持って、大都が向かいの席に腰を下ろす。

「そういえば、事務所から大都の契約更新をしない旨が正式に発表されたのね。今日、ネットニュースを見た職場の女の子たちがへこんで大変だったのよ」

「ネットニュースになるなんて大げさだと思ったけど、今は何でも記事になるからな。静かにして欲しかったが、事務所も話題になれば売り上げにも繋がるんで、早々に発表したみたいなんだ。これじゃ、落ち着いてトレーニングで走りにも行けない。まったく、困るよな」

 そう言って、大都は眉尻を下げた。
 
「ランニングマシーンでも買う?」

「いいよ。このマンションにせっかくジムが入っているから、しばらくは、そこでトレーニングするよ。でも、出入りには気を付けないと。せっかく落ち着いた思っていたのに、ごめん」
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