アイドルなんかじゃありません!わたしの元義弟なんです!!
生理痛に似たギューッと何とも言えない腹部の鈍い痛みに顔をしかめた。

「お腹が張るのはストレスからかしら」

まだ目立たないお腹に手をあてながら「少しでもおかしいと思ったら我慢しないで直ぐに病院に連絡するのよ」と昨晩、母に言われた言葉を思い出す。

「お医者様に連絡して、お腹の張り止めのお薬を処方をお願いしないと」

まだ、安定期手前の4ヶ月に入ったばかりだ。
流産(22週未満)の確率は、全妊婦の15%とかなり高く、妊娠した女性の7人に1人は流産してしまう割合を考えると背筋が寒くなる。
 不安を拭うように急いで、かかりつけの産婦人科に予約の問い合わせを入れると、幸いにも午前中の最後の受付で診てもらえる約束が取れた。
 
「よかった。病院に行くのをスタッフに伝えておかなくちゃ」

 
 事務所となりの休憩室へ入ると、松本さんと宮城さんがスマホを見ながらおしゃべりをしていた。
 
「おはよう」と、声をかけるとHIROTO推しのふたりに何とも複雑な顔を向けられる。

「あっ、オーナーおはようございます」
「おはようございます。オーナー、HIROTOと付き合っているの本当だったんですね」

「ずっと言えなくてごめんなさい。それに迷惑をかけるわね」

 私の言葉に松本さんは首を横に振り、言いにくそうにしゃべり出した。

「あの……。こんなこと聞いていいのかわからないんですけど、HIROTOが事務所の契約更新しなかったのって……ごめんなさい。やっぱりなんでもないです」

 あの記事を読んだファンなら気になり、聞かずには居られないのだろう。けれど、私に言えることなんて何もない。申し訳なさで気持ちが重くなる。

「ごめんね。HIROTOの契約のこと、私にはわからないの」

「いえ、すみませんでした。夜にTVのトーク番組でHIROTOの特番が生放送されるってネット記事を見てしまって、つい気になってしまいました。フライングですね」

「えっ⁉ 特番?」

 生放送の特番だなんて、何にも聞いていない。寝耳に水の状態で、目を丸くしてしまう。

「はい、毎週やっているトーク番組なんですが、告知だと違うゲストだったんですよ。それが、急遽HIROTOをゲストに生放って、今朝のネットニュースになっていました」


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