アイドルなんかじゃありません!わたしの元義弟なんです!!
 言ったよね、応えられないって、言ったよね。

 日本語が通じない。何語だったら通じるのか、私は本気で悩みだした。
 もしかしたら、自分の都合のいいように特殊な変換をしてしまう、残念な脳みその持ち主なのかもしれないと思いあたり、起き上がった私は、大都へ生温かい視線を送る。

「そういうのいらないから、シャワー浴びてね。バスタオルはパントリーにあるの使っていいから。私、疲れたから寝るわ。おやすみ」

手をひらひらさせながら、そう言って、わざとらしく伸びをして背中を向けた。自分の部屋に引き上げようと、リビングのドアに手を掛けたとき、大都の様子が気になり、ふと振り返る。
 すると、大都は立てた片膝の上に頬を乗せ、私のことを見つめていた。

 その瞳は捨てられた子犬のように寂しそうに見え、私は突き放してしまったことに罪悪感を感じてしまう。

 かと言って、さっき言った言葉を取り消すわけにはいかない。なぜなら、義弟でもあった大都との関係を男女のものにしようとは思わないからだ。
 それに、大都が私のことを気軽にお姉さんと呼ぶが、それが一時でも義姉だった私を指すものではなく、自分より年上の女性を呼ぶときの総称だと、私は気が付いている。
 きっと、大都は仕事の関係もあって、年上の女性との付き合いに慣れているのだ。
 そして、どんな表情をすれば、女性の心が揺らぐのかもわかってやっている。
 
 私は、リビングから遠ざかり、自分の部屋のドアを閉めた。
 




 
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