アイドルなんかじゃありません!わたしの元義弟なんです!!
 ブラウンのマニッシュなツイード地で出来たノーカラーのジャケットに同色のワイドパンツ、インナーには、とろみのあるアイボリーブラウス。
 オレンジ系のリップとのバランスも良い。
 女性が見て、「カッコいい」と思われるように武装をして、その姿を鏡に映す。

「ん、イイ感じ」
 
 露出は少なめ、それでいて、体のラインに沿ったシルエットで、大人の女性を演出する。女性に好かれるような服装だ。
 エステサロンの顧客の大半は女性。なので、服装には細心の注意を払う。
 
 せっかく買って来てくれたんだから、パンを食べてから仕事に行こうかしら。
 
 ダイニングテーブルの上に置かれたベーカリーショップの袋を見つけると、何が入っているのか好奇心いっぱいに覗き込む。
 ふわりと焼きたての香ばしい匂いがして、急にお腹が空いてくる。
 いそいそとキッチンに入り、コーヒーマシンにカプセルをセットしてスイッチを押す。
カシュッと高圧で抽出され、今度はコーヒーの香りが漂い始める。
 本格的にお腹が空いてきて、カップとプレートを持ち、ダイニングテーブルの椅子に腰を下ろした。
 
「こういうのもたまには悪くないわね。そういえば、朝の時間を誰かと過ごすなんて、あまりなかったかも……」

 誰かと夜を過ごしても朝まで一緒に居ることをしていなかった。
 一緒に居る時間が長くなればなるほど、不安感に襲われる。
 
 理由なんてわからない。
 でも、きっと、私はひとりで過ごすのが好きだから、誰かと居ると不安になるのかもしれない。


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