アイドルなんかじゃありません!わたしの元義弟なんです!!
低く響く耳心地の良い声がして、私の髪の香りを嗅ぐように大都が顔を寄せた。
 
すでにトレーニングを終えて帰って来た大都から、汗とスパイシーオレンジの香水が混ざった男の香りが漂い鼻腔をくすぐられる。
何気なく、私を支える腕の強さを意識してしまう。でも、なんでもない振りをして顔を上げた。

「ぶつかってごめん。でも、離してくれる?」

「悪い、汗臭かった? シャワー使ってもいい?」

パッと手が離れ、私は解放された。ホッとしていいはずなのに、なぜか一抹のさみしさを感じる。

 いやいや、忙しい朝に絡まれても困るはず……。それなのに、私ったら何を考えているの。

自分の摩訶不思議な思考に戸惑いつつも、大都に場所を譲った。

「ど、どうぞ」

「 thanks! トレーニングで外に出たついでに、パン買って来たから好きなの食べて」

「……ありがとう」

 傍若無人なタイプだと思っていたいたのに、朝ごはんを買って来るなんて、大都の気の使いように目を丸くしてしまう。
そんな私を見て、大都は甘やかな表情を浮かべた。
綺麗なアーモンドアイが弧を描き、形の良い唇の口角が上がり、その隙間から白い歯を覗かせる。
ファンの女のコ達が見たら雄叫びを上げ、失神者が出るレベルの微笑みを、間近で見るなんて心臓に悪過ぎる。

「後でいただくわ」

そう言って、私は、逃げるように部屋に入った。

 昨日の夜は、俺様状態だったのに、今朝は爽やか仕様なの?
 
 つかみどころのない大都にどんな風に接していいのか戸惑ってしまう。
 
 ダメダメ、振り回されないで、しっかりしなくちゃ。
 この家は、私のお城よ。
 1週間で出て行ってもらうんだから……。

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