アイドルなんかじゃありません!わたしの元義弟なんです!!
 近すぎる……。
 
 大都に指示された位置に立ったけれど、思っていたよりかなり近い。
 抱きしめられたこともあるから、いまさら驚かなくてもいいはずなのに、改めて向かい合わせの近い距離に緊張する。

「では、お手をどうぞ」

 舞踏会でお姫様を誘う王子様よろしく大都は手を差出した。おずおずと右手を重ねると大都の空いている方の腕が背中へ回る。

うわっ! めちゃくちゃ恥ずかしい。
社交ダンスって、こんなに密着するモノなの⁉

「俺の右肩に左手を乗せて、肘は肩の高さまで上げる。膝は少し曲げて重心のバランスを取って」

「こんなに近いの?」

 抱き合うカップルのように、お互いの内ももが触れ、おまけに胸を自分から大都に押し付けているみたいになっている。
 焦る私をよそに、大都は慣れているのか余裕の表情だ。
 ムカつく!

「いい? そのまま、背中を少し逸らして、スローで動いてクイックで足を閉じる。スロー、スロー、クイック、クイック、のテンポだから。 じゃあ、動くよ」

「えっ⁉ もう、ウソでしょう? 足を踏んでも知らないわよ」

 教えてくれるって言っていたのに、ホールドしただけで何も習っていない。

 合図のように右手を握られ、クンッと体の重心が動いた。

「スロー、スロー、クイック、クイック」

 あたふたとして早速、大都の足を踏んでしまった。

「あっ! ごめん。大丈夫?」

「大丈夫だから、もう一度やってみよう。足元は見ないで、顔上げて俺を見て、呼吸を合わせれば自然と体が動くから」

「そんな無茶よ」

「ほら、俺のこと見て」

うーん。社交ダンスって見つめ合いながらするモノだったかしら? 物語だと、見つめ合うシーンがあるけれど、テレビで観た競技ダンスのイメージだと遠くを見て居たような気がする。
競技ダンスじゃないときは、見つめるのがマナーなの?

多少の疑問は有るものの、顔を上げて大都と視線を合わせた。
息が掛かる距離というか、キスまで後5秒というか……。

はわわっ、めちゃくちゃ近い、近すぎる!
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