アイドルなんかじゃありません!わたしの元義弟なんです!!
 朝マンションを出てからタクシーに乗り込むまでに、起きた出来事を説明したけれど、あの男がフリーのパパラッチだったのか、それともどこかの出版社だったのか不明のままで、対策の取りようもない。機転を利かせて、名刺の一枚でも手に入れて置くべきだった。
 あのときは、相手の言葉に反応しないのが一番の対策だと思ったが、それは短慮だったのかもしれない。
 いまさらながら、後悔が胸に押し寄せる。

「うん、連絡待っている。迷惑かけてごめんなさい」

『由香里のせいじゃないから、いつまでも言わない。じゃ、夕方までには連絡入れるから、心配ないよ』

「ありがとう」

 プツンと通話が切れて、スマホの画面を見つめる。
 
 スクープとして、雑誌やネットに晒されたら……。
 アイドルは、たくさんのファンからの応援をもらうことで成り立つ職業だ。それなのに写真が出回れば、ファンは思いを裏切られたと思うだろう。
 以前にも考えたように「こんなのわたしの好きなHIROTOじゃない」と言われてしまうかもしれない。

大都は、どんなに忙しくても、朝晩のトレーニングを欠かさず。食事にも気を使い体作りをしている。それは、ファンに良いパフォーマンスを見せるためだ。
 
 大都が努力を重ね積み上げて得たポジション。
 その足元を崩すようなスクープになったら……。 
 心配ないよと言われたけれど、不安が心に降り積る。
 
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