Flower~君の美しい記憶の中で今日も生きていたい~
どうすればいいのかわからずに佇んでいれば、男性が呼んできたであろう女性1人が私に声をかけてくれた。


「カスミ様、でございますね?お部屋へご案内いたします。こちらへどうぞ」


「は、はい」


彼女の後ろをついて長い廊下を歩く。廊下には蝋燭が揺れ、所々にある中庭は美しい。


「記憶を失っているとか……大変でございましたね」


「あの、ここは恭介さんは偉い人なんですか……えっと」


「女中のお菊と申します。恭介様は武神、毘沙門天の申し子と言われるほどお強い方で、桜坂家の当主様でございます」


「そうでしたか。その、彼に奥様はいないんでしょうか?」



いたら嫌だなと思いながら聞けば、お菊さんはくすくすと口元を隠しながら小さく笑う。


「ご心配には及びません。恭介様にはお方様以前に女性の気配がなかったんです。ですから今日カスミ様をお連れになって家臣一同心底驚いたんですよ」


部屋に着いたようで話しながら彼女は襖を開けて私を中に入るよう促す。電気がないので蝋燭で明るさを保っている室内は居心地がいい。


恭介さんは現代でも照明の明るさよりもキャンドルを好んでいたが、昔からの馴れからくるものだったのかもしれない。
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