悲恋の大空

第13話「エバースプリング」

 前回、朝蔵大空は卯月神に告白をした。



[卯月 神]
 「……」


[朝蔵 大空]
 「……?」



 あ、あれ?卯月君黙っちゃってる?


 もしかして私……告白失敗しちゃった!?



[卯月 神]
 「……」



 唖然としている卯月君。


 焦りが止まらない私。



[朝蔵 大空]
 「あ……えとー……」



 ダメだ……私、振られるんだ……!


 その場の空気に耐えられなくなった私は、卯月君の横を通り過ぎて走り去ろうとする。


 ここに居たら泣いちゃいそう!



[卯月 神]
 「えっ、ちょ、ちょっと待って下さい」



 後ろから卯月君の声が聞こえる。



[朝蔵 大空]
 「わーんごめんなさい〜!私、調子に乗りすぎました〜!」



 『待って』と言われてもヤケになった私は待たないで走る。


 ポツリポツリと、雨が降っていて濡れたとしても空の下を私は突っ走る。



[卯月 神]
 「……っ、待ってってば!!」



 追って来た卯月君は私の腕を引いて私を後ろから抱き寄せる。


 卯月君の大きな声、初めて聞いた……。



[朝蔵 大空]
 「きゃっ……な、何するの?」



 突然抱き締められて恥ずかしくなった私は暴れまくる。



[卯月 神]
 「あの!ごめんなさい、貴女が急に言うものだから……」


[朝蔵 大空]
 「え?」



 私は動きを止める。


 た、確かに……私、割と情緒的な感じに告白しちゃったかも。



[卯月 神]
 「僕も貴女が良いです……。好きです、朝蔵さん」


[朝蔵 大空]
 「……!!」



 い、今の言葉は、OKって事だよね?


 わ、私も何か応えなきゃ!!



[朝蔵 大空]
 「よ、よろしくお願いします……」



 その時だった。





 パーンっ!!!





[加藤 右宏]
 「おめでとうゴザイマース!!」



 !?


 こ、これはお祝い事でよく使われるクラッカー??


 って言うか!



[朝蔵 大空]
 「ミギヒロ!?なんで……あんた、ここにいるの?」



 目の前に何故かミギヒロ。


 え??



[卯月 神]
 「ミギヒロ君……」


[朝蔵 大空]
 「え?」



 卯月君、ミギヒロの事知ってんの!?



[加藤 右宏]
 「いやーコレで晴れて両思いと言う事デ。いや!ここマデ地味に長かったデスね!シン様!!」


[卯月 神]
 「……まあ」



 ん?シン様??


 あー卯月君の下の名前か……ん?


 シン……?


 どっかで聞いた事あるような……。



[朝蔵 大空]
 「ちょっと待って!どゆこと!?」


[加藤 右宏]
 「どゆことも何モ、付き合うんだろ?オマエら」


[朝蔵 大空]
 「それはっ……」



 あ、改めて"付き合う"って。


 なんか()ずいな……。



[加藤 右宏]
 「あ、付き合うにしても、周りにはバラすなよ??」


[朝蔵 大空]
 「え?なんでぇ?」



 うちの高校、別に恋愛禁止じゃないけどね。



[卯月 神]
 「……それは僕からもお願いします、朝蔵さん」


[朝蔵 大空]
 「卯月君まで……まあ、卯月君がそう言うなら……」



 周りに言えないのはちょっと寂しいけど、男の子ってこう言うの恥ずかしいんだよね?


 気持ちは分かるなぁ。



[加藤 右宏]
 「二ヒヒ……」



 ミギヒロが怪しく笑う。



[朝蔵 大空]
 「ふたりは……知り合い?」



 このふたり、何故か顔見知りみたいだけど……。



[卯月&加藤]
 「「え?……あー、まあ……」」


[朝蔵 大空]
 「……?」





 ピカ!ゴロゴロゴロ……!!


 ザー……!!





[朝蔵 大空]
 「きゃー!」



 来た、天気予報の土砂降りの雷雨だ。



[加藤 右宏]
 「ナンダ今の音!?」


[卯月 神]
 「こ、これは確か……なんでしたっけ?」


[加藤 右宏]
 「いや分からないんかい!」



 ふ、ふたりとも雨に濡れながら平気な顔してるよ!


 女の子からしたら髪も服もびしょびしょになって最悪なのに!


 こう言う時男の子は良いなぁっと感じる。



[朝蔵 大空]
 「あ……あ……嫌ー!」



 私は急いでバス停の方に走り出す。



[卯月 神]
 「朝蔵さん?」


[加藤 右宏]
 「いきなりドウしたんだアイツ……」



 もう!これだから雨嫌い!!



[朝蔵 大空]
 「あ、丁度バス来た……」


[卯月 神]
 「ああ……」


[朝蔵 大空]
 「乗りまーす!」



 私と卯月君はバスに乗り込む。



[加藤 右宏]
 「待ってー!オレも乗るぅーー!!」



 ミギヒロが後から追い掛けて来たみたいだが間に合わず、バスの扉が閉められる。



[朝蔵&卯月]
 「「あ」」


[加藤 右宏]
 『待って〜……!』



 窓の外を見ると、後方に必死に走って来ているミギヒロが見える。


 だがバスは走るスピードを上げていく。



[朝蔵 大空]
 「あーもう最悪……」



 髪が濡れてせっかくお母さんにヘアセットもしてもらったのに台無しだよ。


 これじゃ私、可愛くないよ……。



[卯月 神]
 「大丈夫ですか?」



 横を見ると卯月君の顔。



[朝蔵 大空]
 「きゃっ……」



 いつの間にか卯月君が私の隣に座ってる!



[朝蔵 大空]
 「あ、あんまり見ないで……今の私、可愛くないから……」



 雨のせいで前髪もビチョビチョのスカスカだし……。



[卯月 神]
 「え…………か、か……」


[朝蔵 大空]
 「……?」



 卯月君が何かを言いたそうにする。



[卯月 神]
 「可愛いですよ、全然……」



 言い慣れてないのか、ぎこちない卯月君。



[朝蔵 大空]
 「……!そ、そっか……」



 卯月君、今私に『可愛い』って言ったよね!?


 こんなダサい私に、嬉しい……。


 今日は、卯月君の色んな顔が見られた気がするな……。


 私、今幸せかも。



[朝蔵 大空]
 「んー……」



 バスで帰る途中、雨に濡れて体温が下がってしまったので少し寒い。



[卯月 神]
 「……?」


[朝蔵 大空]
 「……」



 卯月君、気付いてくれないかな?


 私はわざと自分の二の腕とか摩ってみる。



[卯月 神]
 「……?」



 あ、ダメだこりゃ。



[朝蔵 大空]
 「もういい」


[卯月 神]
 「えっ」



 私は卯月君の横にピッタリくっ付いて、身を預けてみる。


 わぁ、あったかい。



[卯月 神]
 「あの……」



 そうすると卯月君が話し掛けて来たが、私は無視して卯月君の体温を感じる。


 ちょっと疲れちゃった、このまま寝たフリでもしとこ。


 数十分後……。



[アナウンス]
 「お次は、土屋校前〜土屋校前〜」


[朝蔵 大空]
 「あっ」



 着いた、降りなきゃ。


 私達はバスから降りて校門の前に立つ。


 この場所はまだ雨は小粒で降っていた。



[卯月 神]
 「じゃあ……」


[朝蔵 大空]
 「うん!また明日学校でね!」


[卯月 神]
 「はい」



 優しい卯月君の表情、好きだなぁ。



[朝蔵 大空]
 「えへへ」



 離れるのは名残惜しいけど、雨が強くなる前に帰らなきゃ。


 私は卯月君に手を振って挨拶をし、家に帰って行く。



[卯月 神]
 「……」


[加藤 右宏]
 「ぜーはー……せーはー……」



 どこからともなく現れるミギヒロ。



[卯月 神]
 「おや、意外と早かったですね」


[加藤 右宏]
 「死ぬかと思ったゼ……」



 しんどそうな顔のミギヒロ。



[卯月 神]
 「飛んで来たんですか?」


[加藤 右宏]
 「ああ……人間に見られないように雲の上ヲ……ちょっと迷ったケドな」


[卯月 神]
 「……ミギヒロ君、2日後は学校で……」


[加藤 右宏]
 「ん?アァそうだな」



 ……。



[朝蔵 大空]
 「あ、朝からなんですか……」



 朝っぱらから学校の会議室に呼び出される私。


 その相手は──



[卯月 神]
 「すみません」


[加藤 右宏]
 「サーセン」



 なんにも申し訳無さそうじゃない卯月君とミギヒロ。


 よく分かんないけどこの状況、なーんかデジャブ感があるんだよな?


 なんでだろ?



[卯月 神]
 「単刀直入に言います、僕達ふたりは人間ではないんです」


[朝蔵 大空]
 「へ?」



 今とんでもないセリフが聞こえてきた気がする。


 ふたりが、人間じゃない?



[加藤 右宏]
 「ソウ。オレが魔界の悪魔で、コイツが天界の天使ってワケ」


[朝蔵 大空]
 「へ?」



 なになに?理解が追い付かない。



[朝蔵 大空]
 「ま、魔法使いってのは?」


[加藤 右宏]
 「あ、ソレまだ覚えてたんだ?うん、魔法使エルけど、厳密な種族は悪魔なんだ。オレ」



 ミギヒロが悪魔で?卯月君が……天使!?


 ミギヒロが普通の人間じゃないって事は知ってたつもりだけど、卯月君が天使って!


 完全に初耳なんですけど?



[卯月 神]
 「……天使には見えなかったかもしれませんが、本当です。天使なんです、僕」



 信じられないけど、ふたりとも冗談を言ってる訳ではないみたい?



[朝蔵 大空]
 「そんな……人じゃないって……」


[卯月 神]
 「……幻滅しましたか?」



 私に悲しそうな顔をする卯月君。



[朝蔵 大空]
 「そ、それは無い!人間じゃなくても好きだよ!」



 私の気持ちはそんな事では変わらない!!



[卯月 神]
 「……!よ、良かったです」


[加藤 右宏]
 「へへへっ♡」



 何故か自分も嬉しそうなミギヒロ。


 あんたには言ってないけど……。


 ……。



[嫉束 界魔]
 「……」



 昼休み、ここは学校の裏庭。



[笹妬 吉鬼]
 「……っ、はぁ」



 珍しく何も喋らない嫉束に、違和感を覚える笹妬。


 気不味くて息が詰まってしまう笹妬。



[嫉束 界魔]
 「吉鬼」


[笹妬 吉鬼]
 「うわっ!?きゅ、急に喋んな……」



 突然話し出した嫉束にびっくりする笹妬。



[嫉束 界魔]
 「……大空ちゃん、付き合ってるかも」


[笹妬 吉鬼]
 「は?……誰とだよ」


[嫉束 界魔]
 「……吉鬼には言わない」


[笹妬 吉鬼]
 「なんだよそれ…………彼氏がいるような子には見えなかったけど。お前の勘違いなんじゃねーの」


[嫉束 界魔]
 「……同じクラスの人だって」


[笹妬 吉鬼]
 「は?同じクラスとか…………ずる」



 ボソッと呟き、ジュースのパックに力を入れて潰してしまう笹妬。



[嫉束 界魔]
 「ははっ、焦っちゃうよね。ほーんと!」



 隙あり、と笹妬の弁当からリンゴを奪ってつまむ嫉束。



[笹妬 吉鬼]
 「うわやられた」



 ……。



[朝蔵 大空]
 「あー!」


[永瀬 里沙]
 「どどど、どしたん?」


[朝蔵 大空]
 「教科書忘れたー……」



 私の机にもカバンの中にも、これから国語の授業で使う国語の教科書が無かった。



[永瀬 里沙]
 「あちゃー」


[卯月 神]
 「朝蔵さん、僕が……」



 そう言って机をくっ付けてくる卯月君。



[卯月 神]
 「見せるので安心して下さい」


[朝蔵 大空]
 「あ、ありがとう……」



 なんとスマートな……。



[永瀬 里沙]
 「ヒュー!ヒュー!もー憎たらしいほどラブラブねっ!」



 楽しそうに私達を冷やかす里沙ちゃん。



[木之本 夏樹]
 「お、おいどう言う事だよ……」


[永瀬 里沙]
 「あ、木之本。はははっ、最後に笑うのはクーデレよ。ツンデレ(おつ)よ木之本」


[木之本 夏樹]
 「は?べべべ別にツンデレとかじゃねーしっ……ど、どうでも良いっての」



 必死に否定する木之本君。



[文島 秋]
 「あー……」



 何かを察した文島君。



[狂沢 蛯斗]
 「はー!分かりやすいですね!」


[巣桜 司]
 「あ、あれ付き合ってるんですかね?」


[狂沢 蛯斗]
 「絶対そうですよ!いやらしい」


[巣桜 司]
 「んぅ、大空さん……」



 巣桜と狂沢が、教室の外で話す。



[刹那 五木]
 「あ……あー!狂沢くーん!巣桜くーん!」



 狂沢と巣桜を見つけて駆け寄って来る刹那。



[狂沢 蛯斗]
 「うわなんか来た……」


[巣桜 司]
 「ふぇ……よ、陽キャ」


[刹那 五木]
 「何話してたの?」



 狂沢の肩に腕を乗せる刹那。



[狂沢 蛯斗]
 「……新カップル誕生みたいですよ」


[刹那 五木]
 「へー良いじゃん。君らのクラスで?」


[狂沢 蛯斗]
 「アレです」


[刹那 五木]
 「……?」



 刹那は狂沢の視線の先を見る。



[朝蔵 大空]
 「ありがとね?卯月君。こ、このお礼は絶対いつかっ……!」


[卯月 神]
 「別に……貴女が困ってたら、助けたいんです。大切だから」



 そう言って大空に優しい微笑みを見せる卯月。



[朝蔵 大空]
 「……っ!?」



 胸がきゅんとして、赤面の大空。



[巣桜 司]
 「うわん……」


[狂沢 蛯斗]
 「あーもう、全然、全然ダメです!あんなの……大空さんの隣には合いません。全く美しくない」


[刹那 五木]
 「…………誰?」



 そう言って笑う刹那。


 だがその笑顔はとても冷たかった。


 ……。



[朝蔵 大空]
 「こ、これからもよろしくです?」


[卯月 神]
 「はい」



 あ、あたし今……幸せ!!





 つづく……。
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