悲恋の大空

第4話「持つべきもの」

 それは早朝、まだ校舎に生徒が誰も居ない時間での事。


 そんな朝早くから学校に着いている少年ふたりが居た。



[笹妬 吉鬼]
 「おいこれ、分かりにくくね?普通に名前書いたら?」


[嫉束 界魔]
 「んー、念の為にね。無いとは思うけどばら撒かれたら嫌だし」



 ちなみに今ふたりが居るこの場所はふたりの教室ではない、大空達のクラスの教室である2年2組の教室だ。



[笹妬 吉鬼]
 「怪しまれて捨てられんじゃね」


[嫉束 界魔]
 「えーそれは困るなぁ」



 そう言って"永瀬里沙"の机の中へと手紙の様な物をひとつ忍ばせていく嫉束。



[嫉束 界魔]
 「上手くいきますよーに!」



 その時だった。





 カツ……カツ、カツ……。





[笹妬 吉鬼]
 「……?」



 静寂も(つか)()、廊下の方から誰かが階段で上がってくる様な音が聞こえてくる。



[笹妬 吉鬼]
 「やべ」



 先に笹妬の方がその音に気付き、嫉束を置いて自分だけそそくさと2組の教室から出て行く。



[嫉束 界魔]
 「あ……!ちょっと待ってよー」



 嫉束がその笹妬の後をすぐに追い、そして教室には誰も居なくなった。



[刹那 五木]
 「あれ、なんだ今の」



 急いで逃げるふたりの後ろ姿を登校してきた刹那が発見してしまった。



[刹那 五木]
 「あの子達……」


[刹那 五木]
 (やっと動いたのか)



 刹那はその瞬間全てを察した。



[刹那 五木]
 「ふっ」


[刹那 五木]
 (じゃあおれも)



 ……。



[朝蔵 大空]
 「あっ、里沙ちゃんおはよー」





 パンパカパーン!!





[永瀬 里沙]
 「はーい始まりました永瀬里沙のイケメンPR(ピーアール)のコーナー!実況は(わたくし)、永瀬里沙がお送り致します!」



 まずはこの男、エントリーNo.1『嫉束界魔』。


 2年3組、保健委員、去年までテニス部に所属していた。


 身長は176㎝あり平均より高めの細身の男である。


 白い髪に白い肌が印象的な美少年、加えて金色の瞳に長いまつ毛がチャーミング。


 性格は穏やかで、基本的に誰にでも優しいと思われる。


 勉強と運動、彼はどちらかと言うと勉強の方が出来、常に文句無しの成績をキープしている。


 そんな彼が日々鬱陶しいと感じている物が1つある。


 それは『SFC(エスエフシー)』と言う存在だ。


 あの団体についてはここで語ると長くなるのでよしておこう。


 そんな皆んなの憧れ嫉束界魔にも欠点がある。


 それはどこか彼に常識の無さを感じる事だ。


 まあ私が何を言いたいかって言うと、イケメンは皆んなサイコー!!


 欠点までも魅力にしてしまうのだから。


 
[朝蔵 大空]
 「ちょっと里沙ちゃん聞いてるー?」



 私の名前は永瀬里沙、麗しい高校2年生の女子なの!



[朝蔵 大空]
 「ねぇ〜!!」



 三度の飯よりイケメン・美少年が好き!


 横から何か大声が聞こえてきた。



[永瀬 里沙]
 「あーもう大空ー!私の妄想を邪魔しないでよー!」



 私を呼ぶ大空の声だった。



[朝蔵 大空]
 「知らないよそんなの……」



 今日も懲りずに♪元気に妄想中♡



[永瀬 里沙]
 「でも大空、貴女には感謝してるの」


[朝蔵 大空]
 「えっと、何が?」



 この子は親友の朝蔵大空ちゃん、同じく高校2年生の女子♡


 見た目こそ地味で大人しそうに見えるけど、その生まれながらの天然振りで毎日色々な刺激をくれるめちゃめちゃ面白い女。


 まさに私の理想の"少女漫画の主人公"なの!



[永瀬 里沙]
 「だって貴女の周りには……」



 朝は大空と登校して今日初めて教室に入って自分の机を見ると、昨日揃えて帰ったはずの椅子がズレていた。



[永瀬 里沙]
 「……?」



 私はそれに違和感を感じてすぐに自分の机の周りや中を調べた。



[永瀬 里沙]
 「こ、これは……!!ら、ら、らららららラブレター!?」



 なんと驚く事に、私の机の中から1通のお手紙が出てきたのだ。



[朝蔵 大空]
 「えー凄ーい!」



 大空も目を丸くして後方から驚いてくる。


 そんな!?現在モテ期の大空の所に来るのなら分かるけど、なんで私の所なんかに……?



[永瀬 里沙]
 「……何かフラグ立てたかしら?」


[朝蔵 大空]
 「ねーねー!見せて見せてー!」



 私はその場で手紙を開いて見てみる。



[永瀬 里沙]
 「えと……永瀬さんへ、昼休みに学校の裏庭に来て下さい。大事なお話があります……」



 私は小声で手紙の内容を読み上げる。


 女子かと思うほどに綺麗な字で書いてある。


 普通に女の私より上手い。



[朝蔵 大空]
 「すっ、凄い凄い!これ絶対告白だよ、やったね!」



 隣に居る大空が本人の私よりも喜んでいる。


 胸が高鳴らないかと言ったら嘘になる、でも私は……。



[永瀬 里沙]
 「ふん、大空分かってるでしょ。私はイケメンにしか興味無いの。もちろん、フツメン以下なら容赦無く振ってやるわ!」



 私はそう言っていつもの如くキメ顔を決める。



[朝蔵 大空]
 「もぅ里沙ちゃんすぐそうやって言うんだから……って言うか、誰から?」



 大空が呆れた様な顔をしつつそう聞いてくる。



[永瀬 里沙]
 「……S,Sって書いてある」



 手紙の隅に目をやるとそう書いてある文字が見えた。


 S,Sとは……?



[朝蔵 大空]
 「S,Sって事は……佐藤翔(さとうしょう)、とかそんな感じ?」



 佐藤翔?…………いや、聞いた事無いわね。



[永瀬 里沙]
 「うーん、誰だろ。思い当たる奴も特に居ないし」


[朝蔵 大空]
 「じゃあ行ってみないと分かんないね」


[永瀬 里沙]
 「そうね」



 ……。



[永瀬 里沙]
 「てか、あんた達ちゃんとデートとかしてるの?……卯月君!!」



 私は大空の隣の席ででボーッと座っているだけの卯月君に呼び掛ける。



[卯月 神]
 「は、はい」



 寝ぼけているのか、意識が飛んでいるのか魂が抜けているのか分からないけど、大空の彼氏なんだったらもう少しちゃんとしてほしいのよね。



[朝蔵 大空]
 「行ってるよー。この前だって、動物園行ったもん。ねー!」


[卯月 神]
 「うん……」



 大空と卯月君が互いに微笑みながら顔を見合わせる。


 そりゃ、お似合いって言ったらお似合いだし、思ったより仲良さそうに見えるけど。



[永瀬 里沙]
 「いつの間に!?しかも動物園って……」



 この前は水族館だったし、動物園とか、悪くは無いんけどなんか小学生みたい。


 まあ、これが初めて同士のふたりのペースっやつなんだろうけど。


 私としては、付き合ってる事ですらなかなか認めないし、色々もどかしい。



[朝蔵 大空]
 「ん?里沙ちゃん!」


[永瀬 里沙]
 「ん、まあ良いんじゃない?」



 私は大空に名前を呼ばれてとりあえずそう答える。



[朝蔵 大空]
 「あ、でもでもー里沙ちゃんにも彼氏が出来たら、ダブルデートとかやってみたいよね!」


[卯月 神]
 「だぶ……?」


[永瀬 里沙]
 「えっ、私まで!?」



 ダブルデートですって!?


 まさか大空の口からそんな言葉が出てくるなんて!



[朝蔵 大空]
 「うん!だってなんかそう言うの、漫画でよくあるじゃん?だから頑張ってね里沙ちゃん!」



 大空が私ににこやかな笑顔を見せる。


 そう、この子大分明るくなったよね。


 それでも大空は今でも私の完璧なヒロインよ。



[永瀬 里沙]
 「……頑張ってみようかしら」



 大空がそんなに言うなら、私がひと肌脱いでやらないとね。


 フツメンはギリギリ許すけど、ブサメンだったら最悪ご勘弁よ……。


 ……そして昼休み。


 静かな裏庭。



[笹妬 吉鬼]
 「これって俺も居なきゃダメなの?」


[嫉束 界魔]
 「え?だって吉鬼も受けるんでしょ?オーディション!」



 ベンチに並んで腰掛けるふたりの美少年、嫉束と笹妬。



[笹妬 吉鬼]
 「えっと……お前が前に、俺に朝蔵とは喋るなって言ってたんじゃん」


[嫉束 界魔]
 「あっ」



 笹妬の言葉にその事を思い出す嫉束。



[笹妬 吉鬼]
 「……?」


[嫉束 界魔]
 「その通り、大空ちゃんに近付かないで」



 そう言って笹妬の肩を押す嫉束。



[笹妬 吉鬼]
 「お前……意味分かんねぇ」


[嫉束 界魔]
 「そうだね」



 嫉束は開き直る。



[笹妬 吉鬼]
 「って言うか、俺やっぱそのよく分かんないやつ辞めるよ。文化祭とか目立ちたくないしぃ、当日は休むかも」


[嫉束 界魔]
 「え。そう……」



 そう言って嫉束は気不味そうに俯くのであった。



 ……。



[永瀬 里沙]
 (とりあえずここまで来てみたけど……)


[永瀬 里沙]
 「あれ?あれは……」



 辿り付いた裏庭。



[笹妬 吉鬼]
 「ねぇ、ガチで帰って良い?」


[嫉束 界魔]
 「帰っても行くとこ無いでしょ?」


[笹妬 吉鬼]
 「どう言う意味だよ」



 そこで私は思い掛け無い者達に出会(でくわ)してしまった。



[永瀬 里沙]
 「え?ちょっ」



 嫉束君と笹妬吉鬼ですって!?


 こ、こんなの聞いてない!!



[嫉束 界魔]
 「あ!永瀬さんこっちこっち〜」



 私の存在に気付いた嫉束界魔がこっちに笑いかけて手を振っている。


 私、永瀬里沙は今心の中でパニックになっている。


 私をここに呼び付けたって言うのはこいつらだって言うの!?


 てか嫉束界魔マジ顔良すぎ!!


 あと、いつしか大空が絶賛してた笹妬も……。





 ──1ヶ月程前





[朝蔵 大空]
 「あー笹妬君カッコ良いよー!」


[永瀬 里沙]
 「ま、まあ顔は良いかもしれないけど」


[朝蔵 大空]
 「顔だけじゃないよ!性格もめっちゃ良い!あんな優しい人居ないよ!」


[永瀬 里沙]
 「あんま良い評判聞かないけどね……」


[朝蔵 大空]
 「里沙ちゃん!そう言うの良くないよ!私は彼の良いとこちゃんと知ってるもん!顔しか見ない里沙ちゃんには、分からないかもだけどね!」


[永瀬 里沙]
 「失礼な……あんた、いつかダメな男に捕まりそうね」


[朝蔵 大空]
 「も〜!なんで分かってくれないのー!」



 全くあの子、1回優しくされたぐらいで惚れてどうすんのよ。


 まああの子が今夢中なのは卯月君なんだけど。



[永瀬 里沙]
 (どどどどうしよ、逃げ出そうかしら)



 私がそう考えてる内に、嫉束君の方からこちらに近付いて来ていた。



[嫉束 界魔]
 「あれ、永瀬さんだよね?手紙見てくれたんだよね?」



[永瀬 里沙]
 「は、はい見ました!」



 嘘でしょー!私、まさか嫉束界魔に告白されちゃうのー?!


 私と嫉束が付き合って、もしそれがS F Cの連中にバレたりでもしたら……。


 ゴクリ、敵を作る所の話じゃないわ。



[嫉束 界魔]
 「良かった!」



 ……それとこの学校で一番敵対してはいけない、あの"剣崎芽衣"にどんな仕打ちをされるか分かったもんじゃない!


 そんなのダメよ、元々私の好みはクール系だしここはしっかり断らないと!


 大空、ダブルデートしてあげられなくてごめん……!!



[永瀬 里沙]
 「ごめっ」


[嫉束 界魔]
 「永瀬さんお願いします!僕を、王子様にして下さい!」



 へ?


[永瀬 里沙]
 「えっと、嫉束君は既に皆んなの王子様なのでは?」



 土屋校のプリンスって言われてるし。



[嫉束 界魔]
 「え?」


[永瀬 里沙]
 「え?」



 私と嫉束君の会話が噛み合ってない。



[嫉束 界魔]
 「待って待って!なんの話??」


[永瀬 里沙]
 「えとー、逆になんの話でしょうか?」


[嫉束 界魔]
 「なんのって!……文化祭だよ!王子役がどうとか言うやつ!」



 文化祭……王子役……?


 ……あ!


 あー、なるほど。



[永瀬 里沙]
 「あぁ王子って、今度やる劇の事か〜。すっかり忘れてましたなぁ♪」


[嫉束 界魔]
 「忘れてたって」



 嫉束が後ろを振り向き、少し離れた所で座る笹妬と話し始める。



[笹妬 吉鬼]
 「テンポ悪すぎだろ」


 
 って、そんな訳無いよね。


 なんの接点も無いのに急に告白してくる訳無いしー。


 と言うか、もしかしてこの人……。





 つづく……。
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