悲恋の大空

第4話「秋桜」

 なんでもない日の月曜日。



[朝蔵 大空]
 「はい! 卯月くん」


[卯月 神]
 「はい。 クッキー?」



 前回の調理実習で完成することが叶わなかったので、個人的に家で作ってきてしまった。


 自慢じゃないが、私はお菓子作りだけは結構得意。



[朝蔵 大空]
 「はい、里沙ちゃんにも。 お砂糖、控えめにしといたよ」


[永瀬 里沙]
 「ありがとー」



 ……。



[原地 洋助]
 「だから餡子(あんこ)は " つぶあん " だって!!!!!」


[仁ノ岡 塁]
 「 " こしあん " だろ」


[不尾丸 論]
 「どっちでもいいよー」



 私はひとりで1年の教室までやって来た。



[朝蔵 大空]
 「あ! ねぇねぇそこの3人〜」



 私は、窓際で寄り掛かってお喋りをしていた不尾丸くん、仁ノ岡くん、そして原地くんの3人に声を掛ける。


 この3人、仲良いね!



[原地 洋助]
 「え? 大空先輩?」


[朝蔵 大空]
 「はい原地くん」



 私は原地くんに、包んで用意してきたクッキーを差し出す。



[原地 洋助]
 「これって……」


[朝蔵 大空]
 「クッキー作ってきたから食べて」


[原地 洋助]
 「ボ、ボクに……ありがとうございます!!」



 原地くんめっちゃ喜んでくれてる、良いリアクション貰えると、やっぱり嬉しいな。



[朝蔵 大空]
 「部活頑張ってね」


[原地 洋助]
 「は、はい!!」


[朝蔵 大空]
 「はい不尾丸くん、仁ノ岡くん」



 私は間髪入れずに、不尾丸くんと仁ノ岡くんのふたりにもクッキーを配る。



[仁ノ岡 塁]
 「ありがとう!」


[不尾丸 論]
 「あんがと」


[原地 洋助]
 「……ちぇ、おれだけじゃないのか」



 原地くんは拗ねたように口をとんがらせている。



[不尾丸 論]
 「へぇ、アンタお菓子とか作れるんだ? いいね、女の子らしくて」



 なんで不尾丸くんは上から目線……。



[朝蔵 大空]
 「ま、まあこれでも一応女子ですしね……」



 これでも、そう言われるほど女は捨ててない見た目してると思うんだけどな……。



[仁ノ岡 塁]
 「ん〜〜愛してるよメリィー♡」


[朝蔵 大空]
 「うわ!?」



 私と仁ノ岡くんがほぼゼロ距離になる。


 抱き着いて来ようとする仁ノ岡くんに私はびっくりするが、咄嗟に後ろに下がってそれを回避する。



[仁ノ岡 塁]
 「あれ、メリィが居ない…………あ! ()けた! なんでだよメリィ!」



 びっくりした……仁ノ岡くんってば何しでかすか分からない子だ。



[不尾丸 論]
 「おやおや……」


[原地 洋助]
 「馬鹿何やってんだよ! 先輩から離れろよ馬鹿!」


[仁ノ岡 塁]
 「あー! 今、『馬鹿』って2回言った! バカって言うほうがバカ〜! 洋助のほうが2倍バカーっ! 俺様よりテストの点低いくせにー」



 仁ノ岡くんが原地くんに指を差して叫ぶ。


 こ、こんな仁ノ岡くんって子供っぽかったけ?



[原地 洋助]
 「はぁ? 意味分かんないし」


[不尾丸 論]
 「塁、ハグがしたいなら朝蔵先輩じゃなくてオレに……」



 ……その時、黒い影が近付く。



[朝蔵 真昼]
 「うるさいんですけど」


[不尾丸&仁ノ岡&原地]
 「「「…………」」」



 やかましかった3人が真昼の登場で一気に緊張状態となる。



[朝蔵 大空]
 「あ、ごめん真昼〜」



 姉の私からしたら、真昼が怖いのはいつものことだが、逆に助かったと思ってその場から逃げるように教室へと私は戻って行った。


 やっぱり、不尾丸くん達3人のノリには、私は着いていけないや……。


 ……。



[二階堂先生]
 「社会の小テストの結果が返って来たみたいだぞ〜」



 うわ、あんま自信無かったやつだ。



[永瀬 里沙]
 「お! 今回いけそうかも! 大空は?」


[朝蔵 大空]
 「驚かないでよ?」


[永瀬 里沙]
 「お!! まさか満点とか??」



 私は里沙ちゃんに答案用紙をそのまま見せる。



[永瀬 里沙]
 「……さすが」


[朝蔵 大空]
 「うん」



 数学も同じぐらい苦手だけど、社会は全教科の中でも1番苦手!!


 しかも今回は特に嫌いな地理メインのテストでした……。



[朝蔵 大空]
 「あは、今日は残って自習室で勉強しようかな……」


[永瀬 里沙]
 「うん、そうしな〜」



 ……。


 放課後、部活の子は部活に、帰宅部の子はさっさと帰宅している中、私は自習室に向かっていた。


 うちの高校別に進学校とかじゃないし、自習室なんて誰も居ないでしょ。


 これはめっちゃ集中出来そうだ。



[朝蔵 大空]
 「あ……」



 と思ったら普通に誰か居た、私は誰だろうとしばらくその人を見つめる。



[朝蔵 大空]
 「は!?」


[花澤 岬]
 「!?……」



 やばい風紀委員長だ、てか私……今凄い大きな声出しちゃったような……?



[花澤 岬]
 「……何」


[朝蔵 大空]
 「うわわわ、お邪魔しましたー!!」



 私は後ろを振り返って全速力で逃げようとした。


 その時、私の荷物からひらりと何かが落ちていった。



[花澤 岬]
 「あ、おい、何か落ちた……」



 あれは私の社会のテスト!!


 それを花澤先輩が拾い上げる。



[花澤 岬]
 「0点……」


[朝蔵 大空]
 「ひゃっ! み、見ないで下さーい!」


[花澤 岬]
 「あっ、悪い返す」



 私は花澤先輩にテストを返してもらう。



[朝蔵 大空]
 「うう……///」



 私の顔が恥ずかしさで真っ赤になっているのがすぐに分かった。



[花澤 岬]
 「へぇ、0点は相当だな」


[朝蔵 大空]
 「えと……帰ります、私」



 早くここから消えたい気持ち。



[花澤 岬]
 「なんで? 勉強しに来たんだろう。 俺、教えましょうか?」


[朝蔵 大空]
 「すみません、すみません」



 ああ……怒られてる、私……。


 てか花澤先輩背デカすぎ……威圧感やばすぎ……。



[花澤 岬]
 「?……聞いてんの?」


[朝蔵 大空]
 「は、はい?!」


[花澤 岬]
 「勉強、教えるよ」



 え……私、勉強教えるって言われてる??



[朝蔵 大空]
 「え、でも先輩部活があるんじゃ……?」


[花澤 岬]
 「今日はバスケ休みだけど」



 わぁ、先輩ってバスケ部なんだ……。


 なんだか、適材適所な感じがする。



[朝蔵 大空]
 「い、いい、良いんですか……?」



 私は花澤先輩に恐る恐る聞いてみる。



[花澤 岬]
 「……良いも何も、俺から言い出したことだし」


[朝蔵 大空]
 「あ、そうですよね、すみません」



 私は反射的に謝ってしまう。



[花澤 岬]
 「なんで謝るの」


[朝蔵 大空]
 「あ……これはその……えと」



 やばい、先輩また絶対怒ってる、だって眉間にシワ寄ってるし。



[花澤 岬]
 「別に謝罪とか求めてないし」


[朝蔵 大空]
 「じゃ、じゃああの……私に勉強教えて下さい……!」


[花澤 岬]
 「はい」



 ふたりしか居ない部屋で私は花澤先輩から勉強を教わることとなった。


 ずっと隣に花澤先輩が座ってて息が出来ないほどに……もう、とにかくやばかった。



[花澤 岬]
 「聞いてる?」


[朝蔵 大空]
 「あ、はい聞いてますっ!」


[花澤 岬]
 「理解出来たの?」



 正直、花澤先輩の話を聞いてるどころではなく、内容なんて全く覚えていない。



[朝蔵 大空]
 「あんまり……」


[花澤 岬]
 「集中して」


[朝蔵 大空]
 「は、はい」


[花澤 岬]
 「はぁ……もう1回説明しましょうか?」



 ダメだ、花澤先輩のお手を煩わせないようにしないと……。



[朝蔵 大空]
 「あ、いえ! あとは家で自分で復習すればなんとかなりそうです!」



 花澤先輩だって自分の勉強したいだろうし、ダラダラ私の勉強まで見てもらうわけにもいかないよね。



[花澤 岬]
 「あのさぁ」


[朝蔵 大空]
 「はい……」


[花澤 岬]
 「なんでお前、俺にそんなビビってるわけ?」



 私が花澤先輩にビビってる……否定は出来ないけど。



[朝蔵 大空]
 「び、ビビってるって言うか……その、それは……」


[花澤 岬]
 「最初に会った時俺が怒ったから?」



 花澤先輩は私に顔を背けてそう言った。


 最初に会った時ってつまり、私が遅刻した日、先輩にぶつかっちゃった時のことだよね?



[朝蔵 大空]
 「あ……」


[花澤 岬]
 「……俺、お前のことそれなりに気に掛けてるつもりなんだけど」



 花澤先輩が自身のシャーペンを意味も無さそうに弄る。



[朝蔵 大空]
 「それって……」


[花澤 岬]
 「この前の地図帳とか……誰かに盗られたわけ? ねぇ、朝蔵」



 やば……風紀委員長に私の名前覚えられてる。



[朝蔵 大空]
 「へ?」


[花澤 岬]
 「違う?」



 地図帳って、私が借りパクされ掛けたやつ……。



[朝蔵 大空]
 「ああ、違うんです、貸しただけ……」


[花澤 岬]
 「誰」



 うっ……私名前もよく知らない3年の先輩に貸しちゃったんだよね。



[朝蔵 大空]
 「忘れました」


[花澤 岬]
 「わす、れた?」


[朝蔵 大空]
 「ごめんなさい」



 私がそう言うと、花澤先輩が俯きがちになる。



[花澤 岬]
 「……ん、まあ、怒鳴ったことは、俺もすまない…………」



 花澤先輩がボソボソと何か喋っている、よく聞こえない。



[朝蔵 大空]
 「へ、へ?」


[花澤 岬]
 「チッ」



 ひ、ひえぇ〜、舌打ちされた!!!



[花澤 岬]
 「だから!! 《《ごめん》》って言ってるの!!」


[朝蔵 大空]
 「は……はえぇ〜!?」


[花澤 岬]
 「!!?」



 その瞬間、私の目からポロポロと涙が流れてきた。


 花澤先輩に怒鳴られたことで、ついに限界が来てしまったのだ。



[花澤 岬]
 「お、怒ってない! だから泣かなくて良いって……!」


[朝蔵 大空]
 「すみませんっ、ぐすっ……むぐ」



 うう、やっぱり上級生って怖い、私はこんなんで今度の合宿で生き残れるのだろうか。



[朝蔵 大空]
 「……」


[花澤 岬]
 「おい、朝蔵?」


[古道 大悟]
 「コンコーン、お勉強中失礼しまーす」



 ジャージ姿の華やかな印象の男子生徒が自習室に顔を出す。


 まさかのセルフノック音での御登場にちょっとびっくりする。



[朝蔵 大空]
 「……!!」



 あの人は確か……古道大悟先輩?



[花澤 岬]
 「あ?」


[古道 大悟]
 「あれあれ? 何この状況?」



 古道先輩はキョロキョロと私と花澤先輩の顔を交互に見てくる。



[朝蔵 大空]
 「……」


[古道 大悟]
 「えー!? まさか岬、女の子泣かせちゃった??」


[花澤 岬]
 「なっ……?! なんで居るんだよ、陸上は?」


[古道 大悟]
 「気乗りしないから抜けてきちゃった♪ で、ふたりは何してんの??」


[朝蔵 大空]
 「は、花澤先輩に勉強教えてもらってて……」


[古道 大悟]
 「へー! 岬が人に勉強教えるとか珍しー!! しかも女子に」
 

[花澤 岬]
 「別に」


[古道 大悟]
 「え〜、オレがこの前勉強教えてって言った時は断ったくせに」


[花澤 岬]
 「お前は関係無い話ばかりするから」


[古道 大悟]
 「えー、楽しくやったほうが楽しいじゃーん♪」



 花澤先輩と古道先輩、仲良さそう?


 なーんか私のアウェイ感凄いなぁ……。



[花澤 岬]
 「もういいお前、帰れよ」


[古道 大悟]
 「帰るなら岬と一緒に帰るし! 岬が帰るまで待ってるしー!」


[朝蔵 大空]
 「あの! 花澤先輩ありがとうございました、失礼します……!」



 私は涙を袖で拭き、目から涙が出てこなくなったのを確認してから自習室を後にした。



[古道 大悟]
 「……」


[花澤 岬]
 「……」


[古道 大悟]
 「変な子じゃない? あの子」



 古道は冷たく言い放った。



[花澤 岬]
 「おい……」


[古道 大悟]
 「なーんて冗談! 応援するよ、オレ」


[花澤 岬]
 「応援?」


[古道 大悟]
 「サクランボの岬にもついに春が来ちゃったかー」


[花澤 岬]
 「ん? 今は秋だが」



 古道にサクランボと言われ、花澤は首を傾げる。



[古道 大悟]
 「あはは!」



 古道はそれを笑ってごまかす。



[花澤 岬]
 「ふん、まあいい」


[古道 大悟]
 「岬! どこ行くの?」


[花澤 岬]
 「トイレ」



 花澤は古道を自習室に置いてトイレへと出掛けていった。



[古道 大悟]
 「おう、いってらー」



 古道は椅子に腰掛け、花澤の背中を笑顔で見送る。



[古道 大悟]
 「……!」



 ひとりになった古道はふと窓の外を見つめる。



[朝蔵 大空]
 『はぁ、ちゃんと復習しなきゃ……』



 その時、帰宅しようと校門まで歩いている大空の姿を古道は見つけた。


 古道は大空を見て睨んだ。



[古道 大悟]
 「なんなの、あの女、ムカつくわ」





 つづく……。
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