悲恋の大空
[朝蔵 大空]
 「うーん、ちょっと涼しくなってきたかな?」



 寒いまでいかないけど、10月近くになって残暑が終わったのか、風が少し冷たいと感じるようになった気がする。



[永瀬 里沙]
 「大空おはよー!」


[朝蔵 大空]
 「おはよ!」



 朝から元気な里沙ちゃんが私の横を走って通り過ぎて行く。



[永瀬 里沙]
 「私今日、日直だったから急ぐねー!!」


[朝蔵 大空]
 「うんー!」



 今日は確か1時間目に合宿の班決めとか色々やるって言ってたよね。


 ひゃー、ついに始まるのかぁ。


 10月はまさにスポーツの秋、運動マンスリー。



[朝蔵 大空]
 「……よいしょっと」



 私は下駄箱で靴を履き替えていた。


 その時だった……。



[朝蔵 大空]
 「あ、胸元のボタン取れてる……」



 私はブラウスのボタンが1つ外れていることに気が付いて直す。



[花澤 岬]
 「おはよう!」


[朝蔵 大空]
 「うひゃっ?!」



 横からいきなり声が聞こえてきて、振り向くと花澤先輩だった。



[花澤 岬]
 「……?」


[朝蔵 大空]
 「お、おはようございますっ……」



 先輩だと頭で認知した瞬間、私の心臓がバクバクと動き出した。


 な、なんで私はこんな花澤先輩に対してドキドキしちゃってるわけ?!



[花澤 岬]
 「家で復習するとか言ってたけど、復習してきた?」


[朝蔵 大空]
 「復習……」



 復習って、なんのことだっけ。



[花澤 岬]
 「してないの?」


[朝蔵 大空]
 「あ……したんですけど」


[花澤 岬]
 「……けど?」



 ああそっか、地理のテスト……あれ結局家帰っても理解出来なくてほとんど放置してるんだよね。



[花澤 岬]
 「……?」



 花澤先輩が私の顔を軽く覗き込んでくる。



[朝蔵 大空]
 「うっ……///」



 鏡を見なくても今私の顔面が沸騰しているのが分かる。


 なんでなんで、私は卯月くんしか興味無いはずなのに……!



[花澤 岬]
 「おいお前、顔赤いぞ。 熱でもありそうだけど」


[朝蔵 大空]
 「き、気にしないで下さい、大丈夫です」



 花澤先輩に対するこの気持ちは何?



[花澤 岬]
 「まあいいや。 あの、今度の合宿のことなんだけど……」


[朝蔵 大空]
 「え?」



 次の瞬間。



[狂沢 蛯斗]
 「花澤せんぱーーーーい!!!!!」


[朝蔵 大空]
 「えっ……」



 狂沢くんが《《でっかい》》声出しながらこちらに駆けて来た。



[花澤 岬]
 「うおっ……」


[狂沢 蛯斗]
 「花澤先輩! おはようございます!! 今日もカッコ良いですー!」


[花澤 岬]
 「うん……」



 急になんなの狂沢くん、花澤先輩めっちゃ引いちゃってるけど大丈夫?



[花澤 岬]
 「じゃ……」



 あ、花澤先輩が苦笑いしながら早足でどこかへ行ってしまった……。



[朝蔵 大空]
 「く、狂沢くん?」



 狂沢くんの目がランランと輝いている。



[狂沢 蛯斗]
 「あ、大空さん居たんですか」


[朝蔵 大空]
 「今の……なに」


[狂沢 蛯斗]
 「花澤先輩は……ボクの憧れの人なんです」



 花澤先輩、最後何か言おうとしてたけど、なんだったんだろ?


 ……。



[古道 大悟]
 「岬おはよー!」



 教室に入って来た花澤を古道が笑顔で迎える。



[花澤 岬]
 「おはよーう……」


[古道 大悟]
 「あれっ、岬なんか疲れてる?」


[花澤 岬]
 「はぁ。 別に、なんでもない」



 花澤はそう言いながら机の中から本を取り出し、読書を始める。



[古道 大悟]
 「ねぇねぇねぇ、最近あの子と話してる??」


[花澤 岬]
 「んあ?」


[古道 大悟]
 「朝蔵ちゃん! 岬が最近気にしてる女の子〜!」


[花澤 岬]
 「は?」


[3年男子A]
 「えーなになに! 花澤に好きな女出来たの?」



 古道の発言により周りの猿のような男子達が、キャッキャと寄って来る。



[3年男子B]
 「古道、マジ?」


[古道 大悟]
 「マジマジ! 岬ってば、あの子のこと見つけると目で追ってるもん」


[花澤 岬]
 「おい、勝手なこと言うんじゃない」


[古道 大悟]
 「えー、ホントのことじゃ〜ん♪」


[3年男子C]
 「うわ〜、花澤もついに卒業かぁ!」


[花澤 岬]
 「卒業って……俺達皆んな今年で卒業だろ」



 そう言うと花澤は再び本のほうに目線を戻す。



[3年男子C]
 「うわ! 意味分かってないのやば!!」


[3年男子B]
 「本物だ!」


[3年男子A]
 「天然ものだぁー!!」


[古道 大悟]
 「……!」



 少し離れたところから、自分達のほうを見つめる視線に古道が気が付く。



[丸眼鏡の女子]
 「あっ……」


[古道 大悟]
 「……?」


[丸眼鏡の女子]
 「……」



 丸眼鏡の女子は急いで視線を逸らす。



[古道 大悟]
 (うーんと、あれは確か白井(しらい)櫻子(さくらこ)……だったかな。 あの子絶対、岬のこと好きだよな)



 ……。



[二階堂先生]
 「これから来月の合宿に向けての班決めを行う、お前ら! 体育館へ移動だー!」



 私達は次々と席から立ち上がり、体育館シューズを持って体育館へと移動する。





 ざわざわ……ざわざわ……。





 体育館には先に3年生らが集まっていた。


 後から入って来た私達に視線が送られる。



[2年男子A]
 「……」


[3年男子B]
 「……」



 いつもはうるさい男子達が、先輩達の前ではちょっとだけ静か。



[朝蔵 大空]
 「毎年恒例の肝試しは……?」


[永瀬 里沙]
 「肝試しは当日決めらしいよ」


[朝蔵 大空]
 「へぇ、当日まで分からないんだ……」



 肝試し、嫌すぎる。


 私を置いてひとり先に行っちゃうような人じゃないなら、もう誰でもいいけど。



[永瀬 里沙]
 「委員長〜、うちら何すれば良いのー?」


[文島 秋]
 「うん。 今年はね、学年対抗で二人三脚をやるよ。 まずはその二人一組を決めることだね」


[二階堂先生]
 「あっ、まあ出来ればで良いけどー、違うクラスの奴と組んでくれー」



 二人三脚って運動会みたいだな……。



[文島 秋]
 「ふむ、違うクラスの人か……」


[木之本 夏樹]
 「うーむ」



 文島くんと木之本くんがふたりして周りを見渡している。



[嫉束 界魔]
 「ね! 文島くん、もし良かったら」


[文島 秋]
 「ん、組む?」


[嫉束 界魔]
 「うん!」



 嫉束と文島で組になりその場に一緒に座る。



[巣桜 司]
 「はわわ……」



 躊躇(ためら)いの表情で狂沢のことを見つめる巣桜。



[刹那 五木]
 「狂沢くーん! やろー!!」


[巣桜 司]
 「ちょっ……」



 巣桜が狂沢に話し掛けようとする前に、刹那がこの場にやって来る。



[狂沢 蛯斗]
 「え、刹那くんとは嫌です、暑苦しいし。 しかもなんでボクなんですか、貴方他にもお友達いっぱいいるでしょう」


[刹那 五木]
 「だって、君とやったらめっちゃ楽しそうなんだもーん!」



 華奢な狂沢と筋肉質な刹那では体格差があまりにも違いすぎる。


 刹那にとってはそれが『面白い』らしい。



[巣桜 司]
 「ちょ、ちょっと待って下さーい!」



 巣桜が狂沢と刹那の間に割って入る。



[刹那 五木]
 「おお、どうしたの巣桜くん?」


[巣桜 司]
 「ぼ、ボクには狂沢くんしかいないんです! だから……勘弁して下さーい!」



 涙目になってしまう巣桜。



[刹那 五木]
 「そっかー、巣桜くんと狂沢くんはニコイチだもんねー。 でもさー、ここはせっかくならたまには違う人と……」


[巣桜 司]
 「ボクは狂沢くんじゃないとダメなんですぅー……!!」



 巣桜がイヤイヤと言う態度を見せる。



[刹那 五木]
 「じゃ、じゃあジャンケンで決めようよ! あっち向いてホイでもいいよ!!」



 それを(なだ)めようとする刹那。



[狂沢 蛯斗]
 「そこ! 何勝手にボクを景品にして争おうとしてるんですか!! もう付き合ってられません!」



 狂沢が卯月の元へと走る。



[狂沢 蛯斗]
 「君達ふたり面倒臭いのでボクは卯月くんと組みます。 卯月くん、組みましょう!」


[卯月 神]
 「別に良いですよ」



 狂沢と卯月が一緒になってその場に体育座りする。



[刹那 五木]
 「あー、違うクラスで組むルールでしょ?」


[狂沢 蛯斗]
 「" 出来れば " と言うことでしたので」



 二人一組が決まったグループから順にその場に腰を下ろして座っていく。



[笹妬 吉鬼]
 「……」



 うんざりと言う表情でひとり立ち尽くす笹妬。



[嫉束 界魔]
 「やーい吉鬼ぼっちー!」


[文島 秋]
 「木之本はどうすんの?」


[木之本 夏樹]
 「あ、じゃあ俺笹妬と組もうかな、身長近そうだし」



 木之本くんがそう言いながら笹妬くんのほうに歩いて行った。



[笹妬 吉鬼]
 「……うっす」


[木之本 夏樹]
 「てか一緒じゃねぇ? 身長いくつ?」


[笹妬 吉鬼]
 「178だよ」


[木之本 夏樹]
 「うおー! 予想的中! やっぱ二人三脚は身長近い奴と組むのが1番だよなー!」



 おお! なんか男子達のほう、上手いこと決まっててるね。



[永瀬 里沙]
 「アン子ー! 組もうぜー!」


[杉崎 アンジェリカ]
 「なっ……! アン子ってもしかして私のことか?!」


[永瀬 里沙]
 「うん、アンジェリカだと長いから、アン子!!」


[杉崎 アンジェリカ]
 「その『子』はどこから来たのだ!!」



 あ、里沙ちゃんアンジェリカさんと組んだ。



[朝蔵 大空]
 「はっ……!」



 わ、私も早く組まないと晒し首に!


 
[剣崎 芽衣]
 「朝蔵さん♪」


[朝蔵 大空]
 「めめ、めめめ、芽衣様!!?」



 なんと、私の元に芽衣様ほうからやって来た。



[剣崎 芽衣]
 「まだ決まってないよね?」


[朝蔵 大空]
 「はい!」


[剣崎 芽衣]
 「じゃあ、私と……どうかな?」



 私と芽衣様が二人三脚!!?


 そんな恐れ多い……!


 それに、もし転んで芽衣様に怪我でもさせたら私……大バッシングを受けることになる!



[朝蔵 大空]
 「はわわわ……」


[剣崎 芽衣]
 「ダメ? かな……」


[朝蔵 大空]
 「ぜ、全然ダメじゃないです! むしろ、私で大丈夫ですか? 私、めちゃくちゃ足遅いですよ!?」


[剣崎 芽衣]
 「ふふ、私気にしないよ。 楽しくやろ!」



 そう言って芽衣様が座った後に私も釣られて素早く座る。



[二階堂先生]
 「おい、残ったのは刹那と巣桜か? もうそこで組んじまえよー」


[刹那 五木]
 「はい……」


[巣桜 司]
 「は……? 刹那くんと……」



 非常に不満そうな巣桜。



[刹那 五木]
 「ほら巣桜くん、もう皆んな座ってるよー!」


[巣桜 司]
 「ブツブツブツ……」



 司くんが文句言いながら座った……そんなに五木くんが嫌……狂沢くんとが良かったんだね!



[文島 秋]
 「今度は当日一緒に行動する5人から6人のグループを決めるみたいだね」


[二階堂先生]
 「そうだなぁ、3年と2年半々で組めるのが理想かな」


[永瀬 里沙]
 「私は……」


[3年水泳部女子A]
 「おーい永瀬ー!」



 里沙ちゃんが先輩に呼ばれて行ってしまった。



[朝蔵 大空]
 「はぁ……」



 最悪だ、私は里沙ちゃんが居ないと誰のところにも入っていけない。


 私はもう……余ったところで組めば良いっかな。


 と言う風に諦めて、自発的に動くことなく突っ立っていた時だった。



[古道 大悟]
 「朝蔵ちゃーん♪」


[朝蔵 大空]
 「あっ、古道先輩」


[古道 大悟]
 「オレらと組も!」



 まさか誰かから声を掛けてもらえるなんて。


 あ、でも……。



[古道 大悟]
 「んー?」


[花澤 岬]
 「……」



 だよね、花澤先輩と古道先輩仲良さそうだったもん、このふたりは一緒に組んでるよね。



[朝蔵 大空]
 「えと私……」



 なんか最初の頃よりは慣れたけど、花澤先輩の前では緊張しちゃう私がまだ居る。


 話すのが元々得意じゃない私でも、この人に対しては更に口下手になる……。



[花澤 岬]
 「大丈夫か?」


[朝蔵 大空]
 「あ、ううん! ありがとうございます、拾って頂いて……」


[古道 大悟]
 「あはは! 何その言い方、朝蔵ちゃん面白ーい!」



 なんかウケられた……。


 それにしても、花澤先輩も古道先輩も、最近よく私のこと目を掛けてくれてるなぁ。


 親切心、として受け取って良いんだよね?



[巣桜 司]
 「あ、あ! 大空さん!」


[狂沢 蛯斗]
 「ボク達もそこのグループ入れて下さーい!」



 あ、今度はこのふたりセットで来たのか。


 五木くんは多分部活メンバーで組んだんだろうな。



[古道 大悟]
 「……お友達?」


[朝蔵 大空]
 「あ、はいそうですね。 クラスメイトです」



 まあこのふたりが私に着いて来ることはなんとなく予想はしてた……。



[古道 大悟]
 「ふーん、なんかどっちも可愛いね君達」



 古道先輩の言う通り、狂沢くんはちっちゃくて可愛いし、司くんは女の子みたいな顔してるもんなぁ。



[狂沢 蛯斗]
 「ボク達のことですか?」


[巣桜 司]
 「ふえぇ……」



 司くんが狂沢くんの後ろに隠れる。



[花澤 岬]
 「お、お前は……」


[狂沢 蛯斗]
 「狂沢蛯斗です! 覚えて下さい、花澤先輩!」



 そう言えば花澤先輩は狂沢くんの憧れの人なんだっけ?


 林間合宿、不安だけど案外楽しくなりそう? かな!!





 おわり……。
< 60 / 75 >

この作品をシェア

pagetop