悲恋の大空
 昼休みに私と里沙ちゃんが昼食を取りに、食堂へ向かおうとした時だった。



[刹那 五木]
 「コンコン〜、お邪魔しまーす」



 五木くんがセルフノック音で私達の教室に入って来た。


 それ、前も誰かがやってたような……。


 流行ってるの? それ。



[刹那 五木]
 「やほ! 今日も一緒にお弁当食べていいっ?」


[狂沢 蛯斗]
 「はぁ……どうぞ」



 呆れ気味に、狂沢くんが五木くんに許可を出す。



[巣桜 司]
 「……またかよ」


[刹那 五木]
 「えとー、巣桜くんはお母さんにお弁当作ってもらってるの?」



 ボソボソと何か言ってる司くんに五木くんは話を振る。



[巣桜 司]
 「はぁい?」



 司くんはイライラで五木くんの質問にまともに答えるつもりが無いらしい。



[刹那 五木]
 「こわ……」


[狂沢 蛯斗]
 「巣桜くんは自分でお弁当作ってるそうですよ」



 代わりに狂沢くんが、司くんに対しての五木くんの質問に答える。



[巣桜 司]
 「……はい」


[刹那 五木]
 「へぇ凄い! 巣桜くんめっちゃ料理出来んじゃん! 将来は良いお嫁さんかなー?」


[巣桜 司]
 「嫌味ですか」


[刹那 五木]
 「へ?」



 そんなつもりは無かった、と言うように拍子抜けする五木くん。



[狂沢 蛯斗]
 「また喧嘩ですか? 食べづらいですね……」


[刹那 五木]
 「てか待って、もしかしてふたりのお弁当箱、色違い?」



 司くんのお弁当箱が黒色で、狂沢くんのが白色だ。



[狂沢 蛯斗]
 「ぼくが今食べてるものは巣桜くんが作ったお弁当です。 結構美味しいですよ」



 狂沢がそう言いながらポテトサラダのようなものをチビチビと食べる。



[巣桜 司]
 「え、へへ……」



 司くんがちょっと照れる、でも嬉しそうだ……。



[刹那 五木]
 「確かに旨そう……その卵焼きとか」


[狂沢 蛯斗]
 「あげないですよ」


[刹那 五木]
 「別に狙ってないよ〜、狂沢くんってば相変わらず面白い男だなぁ!」



[朝蔵 大空]
 「…………」


[永瀬 里沙]
 「ねぇ大空〜、行こーよー」



 てか待って、これ私なんも助けに入んなくていいよね? いいやつだよね、これ。


 それとも、どっかのタイミングで横槍(よこやり)入れたほうが良い?


 で、でもここで私まで入ってったら司くん更に怒っちゃうんじゃ……。



[狂沢 蛯斗]
 「はぁ? 面白いこと言ったつもりは無いんですけど」


[刹那 五木]
 「えー? てか狂沢くんは存在自体が面白いよ!」



 そう言うと五木くんはデカめの声であははと笑う。



[巣桜 司]
 「……うざ」


[刹那 五木]
 「あ、そうだ。 巣桜くん、この後空いてる……?」



 そう五木くんが巣桜くんのほうを見た瞬間だった。



[巣桜 司]
 「はぁー、狂沢くんを侮辱するな! 狂沢くんに気安く話し掛けるな!!」


[刹那 五木]
 「ぎょえ……!?」


[狂沢 蛯斗]
 「な、なんなんですか? あーもう、ゆっくり食べられやしない、ボク向こうで食べます」



 そう言うと狂沢くんはお弁当と椅子だけ動かして卯月くんが食べてる背中に身を潜めた。



[巣桜 司]
 「狂沢くん……!」


[卯月 神]
 「ちょっと。 な、なんでこっちに来るんですか?」



 これはもう、横槍入れるには遅いよね。



[巣桜 司]
 「…………あぁ、狂沢くんは都合が悪くなったら卯月くんのところに行くんですね」



 司くんがバンッと音を立てて椅子から立ち上がる。



[刹那 五木]
 「巣桜くん……?」


[巣桜 司]
 「狂沢くん、戻って来なさい、ぼくのところに」


[木之本&文島]
 「「ヒエッ……」」



 何かがおかしい。


 あれれ、今までずっと狂沢くんのほうが上で司くんがその下なのかな? って思ってたけど。


 なんか立場逆転しちゃってませんか?



[狂沢 蛯斗]
 「ボ、ボクに命令しようだなんて100年早……」


[巣桜 司]
 「言うこと聞かないなら」


[狂沢 蛯斗]
 「んえっ?」


[巣桜 司]
 「監禁しますよ」



 あ……司くんの目、これは本気だ。



[卯月 神]
 「かっ……」


[アリリオ]
 『ストップ』


[卯月 神]
 「……!」



 教室にいる全員の動きが止まる。



[アリリオ]
 「これは…………バグだね」


[卯月 神]
 「アリリオさん?」


[加藤 右宏]
 「なんダ! ナンだ! 何事だー?」



 卯月の目の前にミギヒロとアリリオが姿を現す。



[アリリオ]
 「OK、修正しとくよ」



 アリリオは何も無い空間からパネルのようなものを取り出し、カチカチと操作しだす。



[加藤 右宏]
 「うはぁ、そう言うことかァ」


[卯月 神]
 「どう言うことですか? 巣桜くんが、狂沢くんに対して監禁するとか言ってましたよ」



 アリリオがまた何も無い空間からグラフのようなものを浮かび上がらせ、説明を始める。



[アリリオ]
 「巣桜司くんは狂沢蛯斗くんに対してとても重い感情を持っている。 それが、朝蔵大空さんに対する気持ちより重くなっちゃったんだね。 そして、そこに居る刹那五木くんがその引き金となった……」


[加藤 右宏]
 「男同士で揉め合っテも一部の連中しか喜ばないンダぞー」


[卯月 神]
 「巣桜くんが狂沢くんに対して恋愛感情を……?」


[アリリオ]
 「いや、これは恋愛感情などではないよ」


[卯月 神]
 「違うんですか?」


[アリリオ]
 「友達に対する感情は、時に恋愛感情を上回ることがある。 巣桜くんは、刹那くんに狂沢くんを取られそうになって爆発しちゃったんだね」


[卯月 神]
 「な、なるほど……」


[アリリオ]
 「バグは修正したよ、後のことは君に任せるよ」


[卯月 神]
 「え、僕?」


[加藤 右宏]
 「頼んだゼー! バイビー☆」


[アリリオ]
 「よろしく」



 それだけ言い残してミギヒロとアリリオは窓から飛んで出て行く。



[卯月 神]
 「あ! 待て悪魔!」



 卯月がそう叫んだ瞬間、止まっていた時間が進み始める。



[永瀬 里沙]
 「あー我慢出来ない! お腹空いた〜!!」


[朝蔵 大空]
 「あ、待ってよー」



 大空と里沙が食堂へと駆け出す。



[巣桜 司]
 「卯月くん、そこ退いて下さい。 狂沢くんにはぼくが1番だって、解らせなくてはならないので」



 卯月の目の前には、見下ろしてくる巣桜が立っている。



[卯月 神]
 (バグ? 直ってなくないですか?)


[アリリオ]
 『あ、やべ。 セーブするの忘れてた』


[卯月 神]
 「スー……あの、譲ります、狂沢くんを」


[狂沢 蛯斗]
 「ぇ……」



 すっかり怯えきった狂沢がか細い声を出す。



[卯月 神]
 「二人三脚、僕は刹那くんとやります……それでもよろしいでしょうか?」



 卯月は刹那に問い掛ける。



[刹那 五木]
 「あ、え? まあ、おれはそれでも良いけど……」


[狂沢 蛯斗]
 「そんな……」


[卯月 神]
 「すみません、狂沢くん」


[巣桜 司]
 「やった、やった! これでやっと狂沢くんとペアだぁ」



 心底嬉しそうに喜ぶ巣桜を横に、プルプルと狂沢は震えていた。


 そして放課後……。



[二階堂先生]
 「みんなお疲れ! 気を付けて帰……」





 ブォン……!!





[朝蔵 大空]
 「……!?」



 教室に砂煙が起こった。


 狂沢くんが全速力で教室から出て行ったのである。



[巣桜 司]
 「逃げやがって……」



 それを司くんがいつもより素早いスピードで追い掛けて行ってしまった。


 しかもカバンとか置きっぱなしで……。



[永瀬 里沙]
 「大分(だいぶ)やばいことになってるわね……」


[朝蔵 大空]
 「あ、ねぇ、外見て!」


[永瀬 里沙]
 「ん? あ、もうあいつら外に!」



 私と里沙ちゃんは窓から顔を出して外の様子を見る。



[巣桜 司]
 「待てっ!!!」


[狂沢 蛯斗]
 「は、早く!」


[タクシーの運転手]
 「は、はい……!」





 ブーーン!!




 狂沢が巣桜に追いつかれる前に、タクシーに乗って逃げ去ってしまった。



[巣桜 司]
 「はぁはぁ……あーなんで逃げるんですかぁー!!」



 (おおやけ)の場で発狂してみせる巣桜だった。


 ……。



[巣桜 司]
 「はぁ……ぜ、はぁ……」



 教室にカバンを取り戻った巣桜は息を切らしながら昇降口まで歩いていた。



[巣桜 司]
 (走ったせいで息が苦しい……)


[巣桜 司]
 「……」



 すると庭に設置してある水飲み場を巣桜は見つける。


 走って喉がカラカラな巣桜はフラフラしながら水を飲みに外まで出てくる。



[刹那 五木]
 「あっ……」



 そこにジャージ姿の刹那現る。



[巣桜 司]
 「あ?」


[刹那 五木]
 「ぐ、偶然だねぇ〜。 えとー、狂沢くんはぁ?」


[巣桜 司]
 「あぁ?」


[刹那 五木]
 「ちょっと、な、なんで拳握り締めてこっち向かってくるわけ?」



 怒り最骨頂の巣桜は刹那にゆっくり近付いていく。



[刹那 五木]
 「こ、来ないでー!」



 死を予感した刹那は後ろを振り返って巣桜から逃げようと走る。



[巣桜 司]
 「止まれ、殺してやるから」


[刹那 五木]
 「ひぃー!!」


[刹那 五木]
 (()こうとしてるのにずっと着いて来る! 巣桜くんって、こんな足速いの? それともなんか不思議な力が働いてるー?)



 そうして刹那がカーブを曲がった時だった。



[???]
 「五木ー」


[刹那 五木]
 「……!」



 ひとりの男が刹那の名を呼んだ。



[刹那 五木]
 「あっ、和樹(かずき)先輩……」


[巣桜 司]
 「……?」



 刹那の雰囲気を感じ取った巣桜は少し離れたところで止まる。



[和樹先輩]
 「ひとりで何やってんの? こんなとこで」


[刹那 五木]
 「え? え、まあ今は部活中ですけど……」


[和樹先輩]
 「あ、そうなん?」


[サッカー部員A]
 「あ! 和樹先輩だ!」


[サッカー部員B]
 「お疲れっすー」



 ぞろぞろと、和樹先輩と言う男に群がってくるサッカー部員達。


 和樹と言うこの男、元サッカー部で1年前に卒業した土屋高の卒業生である。



[刹那 五木]
 「あ……」


[和樹先輩]
 「五木?」


[サッカー部員A]
 「聞いて下さいよ和樹先輩! こいつ明日の合宿の二人三脚でド陰キャとペア組んでんすよ!」


[和樹先輩]
 「え?」


[サッカー部員B]
 「おいやめろって! 五木くんは、陰キャにも優ちぃの!」



 一斉に『ギャハハ』と笑い出すサッカー部員達、和樹は刹那のことを見つめる。



[刹那 五木]
 「あはは……」


[巣桜 司]
 (刹那くん、笑ってるけど。 あれ無理してる時の笑い方だ……)



 巣桜は、嫌ないじられ方をされている刹那に同情してしまう。



[巣桜 司]
 (ぼくも……あんなだった。 あんな風に馬鹿にされて、大勢で、もう……)



 巣桜は自分が過去にいじめられていた記憶を思い出す。



[サッカー部員C]
 「お前最近イツメンと飯食ってないらしいじゃーん」


[サッカー部員B]
 「えっ、ハブられてんの?」


[サッカー部員A]
 「イキってからだよ、バーカ」



 刹那は顔を引き()らせたまま耐える。



[和樹先輩]
 「…………」



 和樹はその様子を黙って見ていた。



[巣桜 司]
 「刹那……くん」


[巣桜 司]
 (ぼ、ぼくのせいだ……ぼくがこんな弱いから、ぼくのせいでっ……!)


[巣桜 司]
 「あー! すみません!!」


[和樹先輩]
 「……!」



 離れたところから見ていた巣桜が、刹那の前に走って出てくる。



[刹那 五木]
 「巣桜くん?」


[巣桜 司]
 「ぼくのせいで! すみませんすみません!」


[和樹先輩]
 「だ、誰?」



 思わぬことに和樹も困惑している。



[巣桜 司]
 「ごめんなさい! ごめんなさい!」



 他の部員達も何も言えずに突っ立っている。


 その時だった。



[サッカー部顧問]
 「おいお前ら! 部活中だぞ戻れ!!」



 サッカー部の顧問が部員達を探しに来ていた。



[サッカー部員A]
 「すんませーん! 戻るぞ……!」


[サッカー部員B]
 「やべ」



 焦りの表情で練習場まで戻って行く部員達。



[和樹先輩]
 「……ごめん、俺もう帰るわ。 じゃあな、五木」


[刹那 五木]
 「あ、はい! お気を付けて」


[和樹先輩]
 「ん」



 和樹は刹那と巣桜の前から姿を消した。



[刹那 五木]
 「……ねぇちょっと」


[巣桜 司]
 「びくっ……」


[刹那 五木]
 「今もしかして……助けてくれたの?」


[巣桜 司]
 「あ、なんか足が勝手に……口が勝手に」



 巣桜の目から涙がポロポロと出てくる。



[刹那 五木]
 「なんでも良いよ! ありがとう!」


[巣桜 司]
 「え?」


[刹那 五木]
 「てかごめんおれ、正直言うと空気読むとか苦手でさー、その……下品な下ネタとかキツいイジりとか、ほんと」


[巣桜 司]
 「な、なんの話ですか?」


[刹那 五木]
 「本音言うとね、狂沢くん達と一緒に居るほうが楽だなーって感じてきて……」


[巣桜 司]
 「楽?」


[刹那 五木]
 「でも……ごめん、おれマジで空気読めてなかった」



 刹那が今度は真剣な表情で話し出す。



[刹那 五木]
 「おれ無理やり巣桜くんと狂沢くんの間に入ろうとしちゃったから、巣桜くんが怒って当然だよ」


[巣桜 司]
 「ぼくは、狂沢くんを取られたくないんです……」


[刹那 五木]
 「取る? 違う違う! おれはただ3人で仲良くしたかっただけだよ!」


[巣桜 司]
 「へ? 3人で……?」


[刹那 五木]
 「そそ! あのね、本当は巣桜くんとも仲良くなりたかったんだけど、怖くて……巣桜くん、おれのことめっちゃ睨むんだもん」


[巣桜 司]
 「え、そんな睨んでましたか? ぼく……」


[刹那 五木]
 「あはっ、睨んでたよ。 もー超怖かったんだから〜」


[巣桜 司]
 「あぁ……」


[刹那 五木]
 「ね! これから二人三脚の練習しない?」



 刹那がそう巣桜に提案する。



[巣桜 司]
 「な……ペアは解消したでしょう?」


[刹那 五木]
 「ううん、おれやっぱ巣桜くんが良い! 卯月くんじゃ身長合わないからね〜。 それに今は……部活のほうに戻りたくないし」


[巣桜 司]
 「あ……」


[刹那 五木]
 「嫌?」


[巣桜 司]
 「嫌……じゃないよ。 ごめん、ぼくのほうこそ我儘言って」


[刹那 五木]
 「おれは全然気にしてないよ!」


[巣桜 司]
 「あ、あはは……」



 夕日が差し込む中、一緒に歩いていく巣桜と刹那であった。



[卯月 神]
 「な、なんとかなった? のでしょうか」


[アリリオ]
 「あは、面白いからバグそのままにして見てた」


[加藤 右宏]
 「腹減ったンだぞー…………ん! 今日の晩飯焼肉食べ放題ナノ思い出した!!」


[卯月&アリリオ]
 「「ずるい!!」」





 おわり……。
< 62 / 75 >

この作品をシェア

pagetop