私を導く魔法薬

彼の記憶の破片

 食事も終わり、彼の記憶を戻す作業を再開。
 互いに向かい合わせのイスとソファーに二人は座った。

「あんた、自分の名前も思い出せないのよね?」

「あぁ」

 彼女の言葉に彼は即答する。

 彼女は彼の答えに少し考え、そしてひらめいた。

「そうだ!あんた、少しくらい人族の言葉が読めたわよね?ざっと文字表を見て、自分のことに関係ありそうな、ピンと来る言葉を探してみない?」

「言葉をか?」

「そうよ。何か、ここに来るきっかけになることを思い出すかもしれないでしょう?それにあんたの魔力、さっきよりも感じられなくなったわ。いま私が感じられるのは、その外せない鎧の魔力だけなのよ、きっと」

 ダリアはテーブルの上に本をいくつか並べた。

「さ。少しでも気になる言葉があったら、すぐに教えて」


 彼は一冊ずつ本を手に取り、一ページずつ眺めてはページをめくる。

 彼の表情は真剣そのもの。
 ダリアは彼をじっと見つめた。

 節くれだった手。浅黒い肌。
 鎧からは筋力がありそうな腕がのぞいている。
 短めでカールがかった濃茶の髪。
 ほうれい線の見える顔。
 そして、決してパッチリとはしていない目ではあるが、黒や紺に近い美しく真っ直ぐな瞳。

 彼は穏やかさが全面にあるわけでもないのに、なぜか自分にとって安心感があった。

 相手慣れしていない自分が対面にいても気が落ち着く。しかしなぜ自分はこうも彼をまじまじと見つめているのか?

 …そう、彼の素性を調べ、記憶を戻すため。
 それなのになぜ彼を見つめている自分が、こんなに気恥ずかしいと思ってしまうのか…

「…ダリア」

 名を呼ばれ、彼女はハッと気付き顔を上げる。
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