私を導く魔法薬
「絶対に、見捨てたりなんかしないんだから!!魔王様…私に力を貸してください…!」

 ダリアは声を張り上げると、取り出した小ビンの中身を確認して素早く飲む。
 そして強風に耐えながら彼に一歩ずつ近付いていった。

 体をも切り裂きそうなほどの強風。
 
 彼はその風の巻き起こる中心で、苦しげな表情のままうずくまっている。

 …必ず助けると約束したから…

 ダリアは祈る気持ちで彼の直ぐ側まで何とか近付き、その頬に口付けた。


 風は次第に収まっていき、倒れた彼と彼の頭を支えてしゃがみこんだダリアだけが残される。

「…私の、せいで……」

 ダリアは倒れ込む彼の頬にそっと触れながら呟いた。

 彼は体力が急速に魔力に変わったために力尽きたのだろう。
 混血とはいえ人間に近いほどの体で、微量な魔力しか持ち得ていなかったのだから。

 彼女が先ほど施したのは、魔力を一時的に収める薬の効果を彼に移すこと。
 しかし魔力を弱める薬を、彼女自身は直に飲んでいる。

 魔族は、魔力が完全に消えれば命に関わる。

 ましてダリア自身の魔力が暴走したわけではないため、混血魔族であるダリアにとってもそれは数日間は寝込むほどのリスクであったことは事実。

 ダリアは自身の重くなっていく体を引きずりながら残りの魔力と体力で彼をベッドを用意して寝かせる。


 彼の記憶を戻すためとはいえ彼の微量の魔力に働き掛ける薬を処方し、今度は暴走したらしい魔力を収める薬。

 彼の体に負担がいくのは当然のことだった。
 自分はそんなことも分かっていたはずだったのに…

 ダリアは後悔とこれからの彼への不安で胸を押しつぶされそうになりながら彼を寝かせる支度を全て終えると、とうとう自分の家のベッドに倒れ込んだ。
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