【コミカライズ配信中】アデル~顔も名前も捨てた。すべては、私を破滅させた妹聖女を追い詰め、幸せをつかむため~
 教会孤児院での体験はどれも新鮮で、温室育ちの私は、あっという間に夢中になった。
 
 掃除や洗濯、食事や貧しい人々への炊き出しの準備。礼拝に来る方のご案内。手伝いごとは山積みで、いくらやっても終わらない。
 
  最初はよそよそしかったシスターと子供たちとも、訪問回数が増えるごとに自然と打ち解けた。自分らしく振る舞える教会での日々は、とても居心地よかった。

 社交界では『ロザノワール令嬢は、卑しい孤児にも慈悲を与える素晴しい方だ』などと持てはやされたけれど。

 私が孤児院の人々を救っているんじゃない。
 
 むしろ逆、私が彼らに心を救われていたのだ。
 

『こんにちは、エスター。今日もお手伝いに来てくれたの?』

『ごきげんよう、シスター・クラーラ! ええ、何か手伝えることがあったら任せて!』

『そうねぇ。今日は天気がいいから、中庭でおやつを食べましょうか。クッキーを持っていってくれる? 落とさないよう慎重にね』

 はーい!と元気よく返事をして、ナッツや木の実が入ったクッキーを慎重に中庭へ運ぶ。

 大皿を持った私が『みんな―!おやつの時間だよ~!』と呼べば、それまで遊んでいた子たちが一斉にこちらへ駆け寄ってきた。

『人数分あるから押さないの! 順番を守ってくださーい!』

 子ども達に押されながら、何とかクッキーを配り終える。全員に行き渡ったかな、と皿を見ると、二枚余っていた。一枚は私の分、もう一枚は……?


 あたりを見回すと、子供達の輪の中に加わっていない子がいた。中庭の隅のほうで本を読んでいる。

 私は彼の元に歩み寄ると『ごきげんよう、シリィ』と声をかけた。
 
 やせっぽちで華奢な、まるで飢えた野良猫のような少年――シリィは、睨み付けるように無言で私を見上げた。

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