【コミカライズ配信中】アデル~顔も名前も捨てた。すべては、私を破滅させた妹聖女を追い詰め、幸せをつかむため~
 シリウスは特に気にした様子もなく、いつも通りクールな無表情のまま。毅然と兄を見下ろしている。

「家臣の進言を無下にするのは、国にとっても、兄上にとっても、得策とは思えません」

義弟(おとうと)のくせに、僕を叱るつもりか! 何様だ、わきまえろ」
 
「苦言を呈する者こそ、真の臣下。それに真摯に向き合うことこそ、王の責務だと私は考えております」

「はははっ! 王になれないお前が、王の責務を語るか。――不愉快だ」

 メイナードは憎らしげに口元を歪めると、憤怒を秘めた目でシリウスを睨み上げ、言い捨てた。

「いい加減にしろ! 再び戦場送りになりたくなければ、今後一切、僕に意見するな。そして一刻も早くここから立ち去れ、目障りだ」
 
 シリウスは諦めたように軽く目を閉じ一礼すると、部屋から出て行った。
  
 サロンを覆っていた緊張が解け、固唾(かたず)を呑んで見守っていた人々が談笑を再開する。
 
「はぁ、あいつは小言が多すぎる。話していると疲れるよ」

「メイナードさま、わたくしがついていますわ」

「ありがとう、ミーティア。そうだ、近々またあいつを戦場送りにしてやろう」
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