【コミカライズ配信中】アデル~顔も名前も捨てた。すべては、私を破滅させた妹聖女を追い詰め、幸せをつかむため~
「好きになっちまったものは、仕方ないんじゃないですかね。うだうだ自己嫌悪に陥るより、殿下にはやることがあると思いますよ」

「やること? 一体、何だ?」

「アデル嬢を精一杯愛し、守ることですよ。今度は決して、失わないように」

 俺は息を呑み、固まった。

 その一言は、まるで暗闇を切り裂く(いかずち)のように、激しく俺の心を揺さぶった。やるべきことが明確になり、迷いや悩みがかき消えた気がする。

「オレは、(あるじ)の悲しむ顔は見たくありません。エスター嬢を失って気落ちした殿下の姿は、そりゃもう見られたものじゃありませんでしたから」

「……心配をかけた」

「従者なんですから、心配くらいさせて下さいよ。あと、恋のお手伝いもお任せを」

「それは結構だ」

 ライアンは椅子から立ち上がると「まぁまぁ、遠慮せずに、任せて下さいよ」と軽い口調で言って、パチッとウィンクした。まったく、コイツには敵わない。

「はぁ、ついに殿下にも新しい春が来ましたかぁ。羨ましい。オレにも可愛い令嬢、紹介して下さいよ~」

「ソニアと仲が良いだろう?」

「いやぁ、アイツは気が強すぎますよ。ま、可愛いところもあるんですけどね」

 まんざらでもない様子のライアンを眺めていると、突如、地鳴りのような轟音と衝撃が走った。

(地震か? いや、違う)

 椅子から立ち上がるのとほぼ同時に、執務室の扉がノックされる。許可を出すと、部下が息を切らして部屋に転がり込んできた。
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