【コミカライズ配信中】アデル~顔も名前も捨てた。すべては、私を破滅させた妹聖女を追い詰め、幸せをつかむため~
 先程まであらわにしていた苛立ち、憎しみ、怒りが、一気に顔から抜け落ちる。
 
 能面のような青白い無表情。瞳孔の開ききった目。紫色に変色した唇。

 手足からは力が抜けて、柳の下の亡霊みたいに、ゆらり、ゆらりと体が揺れている。

「化物……? ちがう」

 ぽつりと、呟いた。
 
「あたしは、黒薔薇のヒロインなの」

 その一言で、ミーティアが私と同じ転生者なのかもしれないと気付いた。
 
「あたしは……王子様と結婚して幸せになるんだ。だからこんなの、おかしい。シナリオと違う!」

 虚空を見つめながら、カクッと首をかしげる。

「ああ、まずエスターがおかしかった。あたしを虐めるはずなのに、無駄に良い子で。あいつのせいで、あたしは痛い思いをして自作自演する羽目になった!」

 きゃははははは!と、狂ったようにミーティアが笑う。

 あまりの恐ろしさに、貴族らが逃げ場を求めて出口へ後ずさる。

 近衛兵が陛下を守るように、さっと前へ出る。シリウスが背後にいる部下へ「あの女を捕らえろ」と命じた。

 騎士が一斉に剣や盾を構え、ミーティア確保に向けて動き出した。
< 212 / 226 >

この作品をシェア

pagetop