【コミカライズ配信中】アデル~顔も名前も捨てた。すべては、私を破滅させた妹聖女を追い詰め、幸せをつかむため~

生死のはざまで前世を思い出す

 前世の私は、平凡な女性だった。
 
 新卒入社した会社で営業部署に配属され、自社製品やサービスを売り込む日々。

 上から圧をかけられノルマに追われ、心身共にすり減っていく。気が付けば入社二年目にして同期の数は半分に減っていた。

 それでも私は粘り強く仕事を続けた。そして地道な努力の末に、やっとつかんだ大口案件を……縁故採用で入社してきた後輩に奪われた。

 
「社長の親戚だかなんだか知らないけど、手柄を横取りするなんてありえない! だいたい、課長の言葉も腹立つのよね。なーにが、『君は先輩なんだから、後輩育成も仕事のうち。社会人なら、大人の対応しなさい』よ! この忖度(そんたく)タヌキじじいっ!」

 怒りのまま定時退社して入った居酒屋で、私は勢いよくジョッキをテーブルに叩き付けた。おつまみキャベツを憎き後輩と課長、社長に見立てて、ボリボリむさぼり食ってやる。

 
「大将、ビールおかわり!」
 
「おお、お客さん荒れてるねぇ。けど、台風直撃みたいだから、そろそろ帰った方がいいんじゃない?」

 
 店主に促されて外を見ると、街路樹が風で大きく揺れていた。
 
 ぐるりと店内を見わたすと、私以外お客さんは誰もいない。

 
「そうね。大将、お会計~」
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