【コミカライズ配信中】アデル~顔も名前も捨てた。すべては、私を破滅させた妹聖女を追い詰め、幸せをつかむため~
「もちろんですわ。あなた様は、円卓会議に名を連ねる侯爵家のご子息。商家の娘である私が話しかけるなど、恐れ多いことです。では、失礼いたします」

「待て、逃げるな。俺の家柄を知っていて取り入ろうとせず、謙虚に振る舞うとは。気に入った、名は?」
 
 気に入らなくて結構です!と叫びたい気持ちを抑え、私はドレスをつまみ優雅に一礼した。

「お初にお目にかかります。アデル・シレーネと申します」

「シレーネ家といえば、我が国を代表する商会だな。海洋貿易の波に乗り、一代で財を成したそうじゃないか。病弱な娘がいて、長くないという噂だったが……」

「私のことですわ」と言うと、ダニエルは「もう体は大丈夫なのか」と尋ねてきた。早く立ち去りたいのに、会話を終わらせてくれない。

「はい。おかげさまで」

「そうか。それは良かった」

 ふいに、無数の視線を感じた。ちらりと横目で確認すると、貴族たちがこちらを見てヒソヒソ話している。

「カルミア侯爵子息と話している、あの綺麗なご令嬢は誰だ? お前、知っているか?」

「いや、知らないな。あんな美女とお近づきになれて、カルミア侯爵子息が羨ましいよ」

 周囲の囁きが聞こえたのか、ダニエルは勝ち誇ったようにふんぞり返る。

 こんな美女に言い寄られる俺ってすごいだろ、と思っている時の顔だ。
< 69 / 226 >

この作品をシェア

pagetop