【コミカライズ配信中】アデル~顔も名前も捨てた。すべては、私を破滅させた妹聖女を追い詰め、幸せをつかむため~
 その時、高位貴族らしき男が「これはこれは、シリウス殿下」と笑顔ですり寄ってきた。
 
 シリウスがぴたりと足をとめる。無表情で貴族を見下ろす目は、真冬の寒風よりも冷ややかだった。

「何か?」

 凍てついた声音に、貴族の顔が引きつる。

「その……実は、うちの長女の初の社交界(デビュタント)でして、シリウス殿下に一曲、踊りをお願い出来ればと……」

「用がある。他を当たれ」

 取り付く島もないとは、まさにこのこと。貴族の頼みをすげなく一蹴して、シリウスは再び歩き出した。

 あわよくば自分の娘とも踊りを……と前のめりになっていた貴族たちが、さっと身を引いた。
 
 小説ではクールキャラとして描かれていたシリウスだが、実物はさらに上を行く塩対応……いや極寒対応ぶり。無口無表情、無慈悲。人間味の感じられない姿に、少し怖いと思ってしまう。

 
 夜会の出入り口に着くと、私は改めて頭を下げた。

「カルミア侯爵子息には厳しく(きゅう)をすえておく。……が、あの考えなしのすることだ、逆恨みして貴殿に危害を加えるかもしれない。巡回警備を強化するが、そちらも十分警戒して欲しい」

「お心遣い感謝いたします、殿下」
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