【コミカライズ配信中】アデル~顔も名前も捨てた。すべては、私を破滅させた妹聖女を追い詰め、幸せをつかむため~
 慌ててやってきたソニアとともに私が馬車に乗るのを見届けて、シリウスは颯爽と去って行った。

(ちょっと怖いけれど、悪い人じゃないのかも)

 ダニエルからの報復を警戒して巡回を増やしてくれたり、わざわざ玄関まで送り届けてくれたり、怖そうにみえて、意外と優しい一面があるのかもしれない。

 
(とにかく、今日は、疲れた……)

 
 目をつぶると、まぶたの裏に幸せそうなミーティアの笑顔が浮かぶ。
 
(シナリオ通り、ミーティアはメイナード殿下と結ばれ、今日の夜会で婚約発表した。ということは、やっぱりここは【黒薔薇姫】の世界……)

 
 とすれば、このあとに起こるイベントは、シリウス殿下の謀反と処刑――。

 悪役王子という役割を与えられ、遠くない将来、断罪される第二王子シリウス。
 
 悪役令嬢エスターと同じくシナリオの被害者ともいえる彼を、私はひっそりと哀れんだ。




 それから数日後、ソニアがシリウスの情報を仕入れてきた。さっそく自室に呼び、報告を受ける。

 開口一番、ソニアがこう言った。

「シリウス殿下は王宮で、こう呼ばれているそうです――『不要の王子(スペア)』と」
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