天才ドクターは懐妊花嫁を滴る溺愛で抱き囲う

(だから〝二度目〟がなかったのかな。慣れていない私なら、一度抱けば執着されない程度に情が湧くって思ったのかも)

恋心をきちんと自覚する前に身体を繋げてしまったが、それに関して後悔はない。

彗は決して乱暴でも自分本位でもなく、むしろ意外なほどに優しく気遣って抱いてくれた。

けれど、それを利用されたのだと思うとやるせない。

(それも、あの人の手の中で転がされていたってことなのかな)

なにも考えたくないと思うのに、次から次へと彗と交わした会話ややり取りが思い出される。

出会ってたった一ヶ月半。時間にするととても短いけれど、濃厚な一ヶ月半だった。

まぶたを閉じても目尻から雫が伝い、枕が悲しみに濡れていく。

なにに涙しているのか、自分でもわからない。

彗が実は自分を愛してはいなかったと聞かされた絶望、これからどうしたらいいのかわからない不安、彗を信じきれない自分自身に対しての失望。

すべてがぐるぐる胸の中で渦巻いて、涙として体外に放出されていく。

結局一睡もできないまま朝を迎えた。

泣き腫らし、とてもメイクでどうにかなる顔ではない。

今日が休みでよかったと安堵し、明日からどうすべきかと鏡の中の自分が大きくため息をついた。





< 161 / 227 >

この作品をシェア

pagetop