天才ドクターは懐妊花嫁を滴る溺愛で抱き囲う

その行動を彗はどう思ったのか、さらに腕に力を込め、ひどく切羽詰まった声音で囁いた。

「羽海、遅くなって悪かった。全部説明するから、ちゃんと話を聞いてほしい。頼む」
「わっわかりました、聞きます! 聞きますから一旦離れて! た、多恵さんの前です……!」

恥ずかしさから懇願するように彗の腕をぺしぺし叩くと、渋々といった表情で解放してもらえた。

一気に距離を取ってはぁっと大きく息を吐くと、可笑しさを堪えきれない様子の多恵が彗を見て笑った。

「これと決めると一直線で他が見えなくなるのは昔から変わらないわね」
「一直線のなにが悪い」
「悪いとは言ってないでしょう。子供の頃からずっと医師になることだけを考えて努力してきたからこそ、今があるのだもの。まぁ、勘違いをして羽海さんを不安にさせたのはあなたの落ち度だけれど」
「……勘違い?」

彗が眉を顰めて多恵を振り返る。

「一体誰が理事就任のために結婚相手を斡旋しようなんて考えるものですか。能力と志のある者だけが理事に選出されるの。独身だろうと既婚者だろうと関係ないわ」
「……でも実際、財団を継ぐなら結婚してた方がいいだろ。だから理事就任前に羽海との結婚を持ちかけたものだと思ってたんだが……違うのか?」

多恵に質問をしながら気まずげな視線を送ってくる彗に、羽海は大丈夫だと小さく微笑んでみせた。

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