天才ドクターは懐妊花嫁を滴る溺愛で抱き囲う

『わざわざ大変な制度を使ってまでうちを頼ってきたんだ。必ず成功させて普通の生活を送れるようにしてやりたい』

羽海の言葉に振り向くことはなかったが、医師として自分よりも患者のことを考えて努力を重ねる彗に尊敬の念が湧いた。

院内の噂では不遜で傍若無人な俺様医師だと噂があったが、真逆だと羽海は感じる。

そのギャップが生まれるのは、これほどまで患者を思って仕事に向き合う彼の姿を知る人がいないからなのだと思うと、自分だけが彗の本質を知っているような気になって心がざわめいた。

手術予定日を控え、まったく関係のない羽海でさえドキドキして昨日の夜はうまく眠れなかった。同じ病室の患者さん達も同じらしく、全体的にそわそわしている。

なんとかいつも通り業務をこなしたが、家族でもない羽海が彼の手術の結果を知るすべなどなく、貴美子の病室に顔を出してから帰宅した。

手術に関しては羽海がいくら気を揉んでも仕方ないと頭から締め出し、家事をしながらこの二週間の出来事に思いを馳せる。

事務員だと思い込み親しくしていた多恵が祖母の友人であり、さらに大病院を運営する財団の理事長だと知った。

多恵の孫で病院の後継者である彗と結婚前提の交際を勧められ、断ったものの勝手に実家のリフォーム工事が始まってしまったので、仕方なく彗の部屋での同居生活を余儀なくされている。

何度考えても奇妙で非常識な展開なのに、彗はなぜ羽海を家に招き入れ、病院で婚約者と触れ回っているのだろう。

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