私のボディーガード君
「まさか、妃奈子さんから会いに来てくれるとは思わなかったよ」

笑顔を浮かべる浅羽は珍しくスーツではなく、黒いパーカにジーンズという軽装だった。

ますます仕事で来ていたというのが疑わしくなる。

「さあ、どうぞ」

玄関に入ると、広いリビングダイニングルームに出た。部屋の真ん中に階段があり、二階にも部屋があるようだった。

室内はモデルルームのように綺麗に整頓されていて生活感をあまり感じない。

「暖炉があるのね。浅羽さんの別荘?」

壁際の暖炉に視線を向けながら尋ねた。

「そう。僕の別荘。日帰りで温泉に来ないかって、前に誘った事があっただろう? 温泉に入った後は実はここに招待しようと思っていたんだ」

陽気な浅羽の声が広い空間に響く。いつも以上にハキハキと明るい話し方をする浅羽になぜか不安になる。

「そうだったんだ」
「妃奈子さん、コーヒーでいい?」

カウンター式のキッチンから浅羽が暖炉前にいる私を見た。

「うん」
「それにしても驚いたよ。妃奈子さんが日光にいるなんて」
浅羽がコーヒーの準備をしながら話し続ける。

「私も驚いたわ。浅羽さん、神宮寺製薬の研究所に行っていたの?」
「そうなんだ。新薬の事で関わる事になってね」
「そう言えば、浅羽さんって何の仕事をしているんだっけ?」
「医療コンサルタントだよ」
「そうだ。コンサルタントって聞いていたんだ。医療コンサルタントってどんなお仕事?」
「一言で言うと、経営上の問題点を改善する仕事かな。お客さんは病院とか、医療機器メーカーとか、製薬会社でね。医療業界に関わる仕事だよ」
「じゃあ、浅羽さん知ってる? チャイルドっていう小児ガン用の抗がん剤の事」

質問を口にした時、唇が震えそうになった。
鼓動が速くなる。

浅羽の反応が怖い。
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