私のボディーガード君
 苛立った感情をぶつけるように中ジョッキに半分残っていたビールを一気に飲むと、「無茶な飲み方するとお体に障りますから」と三田村さんに言われた。そんな事言われても、気が済まないのよ。

「だって、苦しいの」
「苦しいんですか?」
「悲しくて、惨めでやり切れないの」
「お嬢……妃奈子さんのお話、聞きますよ。秘書ですから、秘密は必ず守ります。大臣にも言いません」
「本当に?」
「はい」

 真面目そうな端正な顔は、なんか安心感がある。
 話しても大丈夫かも。

「今夜、別れた恋人と行く予定だったレストランに行ったんだ。そしたら、先週別れた元カレとばったり会っちゃってさ。しかも若くて可愛い女の子連れているの。その子、お肌が白くてモチモチしてて、若いってオーラ出ていたんだよね。男の人って、私みたいな30過ぎの女より、やっぱり若い子が好きだよね。そういえば光源氏も40歳の時、14歳の『女三の宮』を妻に迎え入れちゃってさ。いくらお兄ちゃんの朱雀院に頼まれたからって、紫の上が可哀そう過ぎる」

 本当、千年前も今も男って若い女の子が好きで腹が立つ。
 浅羽のやつ、ゆみちゃんなんて馴れ馴れしく呼んじゃってさ。可愛い子だったけどさ、まだ別れて一週間だよ。私の事、あんなに大好きだって言ってたくせに……。

 ぐすんと鼻をすすりあげると、「私は妃奈子さんが好きですよ」と言う言葉が一メートル離れた場所からした。
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