私のボディーガード君
 目が合うと三田村さんが優しい表情で微笑む。

 私の事を好きみたいな顔をしているけど、騙されないから。
 道路の真ん中でバカヤローなんて叫んでいる30過ぎの女を好きになるなんて、ありえない。

「さすが議員秘書、口が上手いわね。ありがとう。本心じゃなくても嬉しいわ」
「本心ですよ。出会った瞬間からあなたの事が好きだったんです」

 ぷっ。可笑しい。出会った瞬間から好きって。
 恋愛ドラマじゃないんだから。
 こんなくさい台詞、しらふで言う(ひと)、初めて見た。

 三田村さんって、真面目そうに見えるけど、面白い人かも。

「笑い過ぎです」

 お腹を抱えて笑っていると三田村さんが困ったように見てくる。
 眉尻を下げた困った顔がちょっと可愛い。

「だって、三田村さんが面白過ぎる事言うんだもん。『出会った瞬間から好き』って言葉が元SPから出てくるとは思わなかった。少女漫画過ぎる」
「本気にしていませんね」
「当たり前でしょ。だって三田村さんいくつ?」
「27歳ですが」

 27歳! わ、若い……。

「なんですか?」
「年下だと思っていたけど、7歳も下だとは思わなかったから。三田村さんじゃなくて、三田村君って呼んでもいい?」
「7歳しか違いません。子供扱いしないで下さい」
「あっ、三田村君って呼ばれるのが嫌なんだ」
 指を指して笑うと、「人に向かって指を指すのは失礼な行為です」と叱られる。三田村君に叱られるのがなんか嬉しい。

 さっきまで胸の中が重たくて仕方なかったけど、三田村君のおかげで少しだけ軽くなった。

「笑ったからちょっとスッキリした。三田村君、歌おう!」
「えっ、私は歌は全然ダメで」
「よし! アニソンメドレーにしよう。知らなくても一緒に歌うのよ」
「妃奈子さん、ちょっと」

 三田村君の言葉を遮るようにスピーカーから大音量の音楽が流れだし、渋々、三田村君は自分の前にあったマイクを手に取った。
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