私のボディーガード君
「昨夜はお休みになれましたか?」

 大学に行く仕度をして、マンションの地下駐車場に降りていくと、グレーのスーツ姿の三田村君に聞かれた。

 昨夜は深夜まで一緒にいたのに、全く疲れた様子が見えない。
 やっぱり元SPだけあって体力ありそう。それとも若いからかな。

「ええ、おかげさまで」
「妃奈子さん、どうぞ」

 三田村君が黒いSUVの後部座席のドアを開けてくれる。

「せっかくだけど、私、自分の(ミニ)で行くから」
「そうですか。でしたら、キーを頂けますか。私が運転しますので」
「イヤ。自分で運転する」
 三田村君が僅かに右眉を上げる。

「万が一に備えて私が運転したいのですが」
「万が一って何?」
「追突されたりする事です」
「つ、追突!」
「そんなに目立つ事はしてこないと思いますが、万が一を考えるのが私の仕事ですから」

 追突だなんて冗談じゃない。
 大事な愛車を傷つけられたくない。

 自分で運転したかったけど、渋々SUVの後部座席に乗り込んだ。
 乗り込んだ瞬間、ムスクの香りがした。

 三田村君の匂いだ……。

 急にドキドキしてくる。

「では、発車します」

 ルームミラー越しにキリッとした黒い瞳と合ってドキッ。

 ――妃奈子さん、好きです。

 夢の中で三田村君に言われた事を思い出して、顔が熱くなってくる。

 あー、もう、なんで思い出すかな。気まずいじゃない。

 落ち着け、私の心臓。
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