私のボディーガード君
「マザコンじゃないわよ。愛情が深いの! それに光源氏は実母の顔を覚えていなかったんだから」
「でも、継母を好きになるなんて年が離れ過ぎでは」
「藤壺と源氏は5歳しか違いません! 二人は姉と弟みたいな関係だったの。よく知りもしないくせに源氏を侮辱しないでくれる?」

 キッと男を睨むと、「相当ですね」とバカにしたように言われた。
 何、この男! いちいち腹が立つ。

 大きく息を吸って次の言葉を吐き出そうとした時、「ストップ」と言って男が腕時計を見る。

「もう8時ですけど、時間大丈夫?」

 えっ! 8時なの!
 今日は月曜日で9時から1限の講義がある。

 急いで仕度しなきゃ。
 その前にこの男を追い出さないと。

「そんな怖い顔で睨まないで下さいよ。帰りますから。あなたが遅刻したら学生が可哀そうだし」

 学生? 私が大学で教えている事を知っているの?

「では、佐伯(さえき)妃奈子先生。遅刻しないで下さいね」

 私の名前を知っている……。
 どうして?

「待って」

 寝室を出て行った男を追いかけて、玄関に向かう。
 廊下の先でガチャッと玄関ドアが閉まる音がした。

 ドアの外に出てキョロキョロと外廊下を見るけど、男の姿はもうない。
 これ以上、追いかける時間もなく、部屋に戻って仕度をする。

 仕度をしながら、男の顔を思い浮かべると見覚えのある顔だった気がする。でも、どこで会ったんだろう?
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