隠したがりの傷心にゃんこは冷徹上司に拾われて
第三章

週末、癒しのお散歩旅

 その日から、私のミスは劇的に減った。
 そもそも、最初から私のミスではなかったのだが。
 熊鞍さんはあの日からは、嫌味もなく淡々と仕事をこなしていた。元々彼女は優秀だ。仕事のデキる人なのだ。

 あの日の帰宅後、部長は夕食の席で私に、「猫宮は変わらないんだな」と告げた。

「そうですか?」

「ああ。普通は多少の気苦労をする。だが、猫宮はいつも通りだった」

 それは、私が強くなったという証だろうか。そうならば、嬉しい。
 けれど、結局すべて部長がしてくれたことだ。私は隣に座り、ただ黙って報告を聞いていただけだ。

 そう言おうと顔を上げると、部長は笑みを向けていた。
 その瞳の優しさに、私は頬が熱くなり、慌てて視線をご飯に向けた。

 *

 それから、私は部長に何かお礼をしたいと考えるようになった。

 部下のことを(おもんぱか)るのは、部長の仕事と言われればそれまでなのかもしれない。
 けれど、仕事中はなおのこと、家についてまでずっと私を気にかけ声をかけてくれたのは嬉しかった。

 同時に、尊敬と憧れの人の貴重な時間を、私に使ってもらったことが申し訳なかった。
 時間は誰にでも同じだ。誰かのことを気にかけているだけ、その人の時間が減ってしまう。
 部長はその貴重な時間を、私のためにわざわざ割いてくれたのだ。

「部長、あの――」

 ある日、食後のリビングでくつろぐ部長に声をかけた。
 部長は「ん?」と顔をこちらに向けると、隣に座るよううながす。
 うながされた場所に座れば、部長は私の頭をそっと撫でた。これは、私がペットとして部長と接する時間でもある。
 ペットだからと黙っていると、部長が「何か話があるんじゃなかったのか?」と視線をこちらに向ける。至近距離で目が合って、ドキリと胸が跳ねる。けれど、部長はその先を促す。

「今週末、お時間ありますか? 部長に、お礼をしたくて」

 私がお詫びと言わずにお礼と言ったのは、その方が部長は受け取ってくれると思ったからだ。

「礼か。そんなの、いい……と言いたいところだが、猫宮が何をしてくれるのかは知りたい」

 部長はふっと息を漏らして笑う。私は考えていたことを言うだけなのに、緊張していた。
 ふうと息を吐きだし、息を大きく吸って、それから言った。

「動物園に、行きませんか?」

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