隠したがりの傷心にゃんこは冷徹上司に拾われて

懐かしい再会

 その日、外部のお客様の案内役は私だった。

 今までは熊鞍さんが担っていたのだけれど、データ改ざん行為が問題となり、彼女は今は内勤のみを命じられている。

 今は先輩の靖佳(しずか)さんと交代で外部のお客様案内をしているが、今日は私が担当の日だ。

「案内行ってきますね」

 靖佳さんに声をかけて席を立つ。今日は広告代理店の営業さんがやってくる。細かいことは聞いてはいないが、どうやら我が社の住宅展示場の、広告をお願いするらしい。

 受付の内線から、営業さんがエレベーターに乗ったと聞いてロビーで彼を待つ。
 我が社の東京本部は、六本木のオフィスビル三十階から三十五階にあって、特に入り口フロアからの眺めはいい。東京タワーがやたら突き抜けた青空に映えるなと思っていると、ロビーのエレベーターが開く音がする。

 はっとしてエレベーターの方を向き、姿勢を正す。
 スーツ姿の男性が降りてくるのが見えて、頭を下げた。

「本日はご足労いただきありがとうございます。本日案内をさせていただきますイノベイティブ・ホームズの――」

「……瑠依(るい)ちゃん?」

 突然名を呼ばれて、頭を上げた。スーツ姿の男性は、驚いた私を見て顔をほころばせる。

「やっぱり、瑠依ちゃんだ」

 にこりと笑ったその顔の人物を、私は忘れるはずがない。
 それは、大好きだった、初恋の人――。

翔也(しょうや)、お兄ちゃん……?」

「うん、久しぶり。まさかこんなところで会うなんて」

 翔也お兄ちゃんは、ふふっと笑う。

「あー……、今日はよろしく?」

 首を傾げられ、慌ててしゃんとした。今は仕事中だ。

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

 慌ててペコリと頭を下げて、会議室へと彼を案内した。

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