隠したがりの傷心にゃんこは冷徹上司に拾われて
 その日は何とか残業を免れ、急いで待ち合わせの居酒屋に向かう。
 お店に入ると、すでに真宙(まひろ)夕空(ゆあ)がいて、こちらに手を振る。

「瑠依ー、お疲れ様ー」

「ん、おつかれ」

 ビールで乾杯をして、仕事の疲れを癒やすように一気に飲み干す。

「瑠依、いい飲みっぷり」

「ごめん、疲れてたもんで」

「瑠依は栄転決めたんだもんね~、仕事デキる女はうらやましいよ」

 夕空が言って、苦笑いを浮かべた。
 夕空は高校時代から付き合っていた彼氏と結婚し、今は一児の母だ。お子さんは、今日はお義母さんが見てくれているらしい。

「今日は私の話はどうでもいいでしょ。真宙、ハネムーンどうだった?」

 私の方に話題が向いてしまいそうになって、慌てて軌道修正する。
 今日は、結婚式の後、二週間のハネムーンに行っていた真宙の話を色々聞こうと集まったのだ。

「ああ、そうだった! 聞きたいな~フランス贅沢旅の話」

「もうね、最っ高だった! パリは夜景もきれいだし、ニースの海もきれいだったし! あ、でも夜がけっこう寒くてさあ……」

 真宙の旦那さんは好食家らしい。真宙がハネムーンでヨーロッパに行きたいというと、じゃあ行先はフランスで、ととんとん拍子に決まったのだそう。
 幸せそうな真宙の話に、私はふふっと笑った。

「瑠依、何?」

「いや、幸せそうで何より」

 真宙は「ありがとう」とはにかむ。それから、唐突に「あ!」と声を上げた。

「これ、忘れないうちに! お土産」

 手渡されたのは、小さいけれど高級そうな紙袋だ。

「なに、これ?」

「これはねえ……」

 テーブル席で向かいに座っていた真宙がこちらに身を乗り出す。
 思わず私も、夕空も身を乗り出す。すると真宙はヒソヒソ声で続けた。

「魅惑のランジェリー♡」

「ら、ランジェリー!?」

 思わず大声を出してしまい、真宙も夕空もケラケラ笑う。
 周りの人がチラチラとこちらを見ている気がして、恥ずかしくなり慌ててビールを飲み干した。

「で、でも何で急にランジェリーなんて……」

「急じゃないよ。瑠依もそろそろいい人できるんじゃないかなあって」

「あのねえ……」

 ため息混じりに答えると、真宙も夕空もため息を零した。

「まだ元カレのこと、引きずってるの?」

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