パーフェクトな警視にごくあま逮捕されました
「僕は篠永さんがいいな。
ほら、行きましょう」

「えっ、あっ」

駒木さんの手が私の腕にかかり、強引に立たせる。
そのまま、半ば引きずられるようにエレベータに乗せられた。
中は、外ランチや買いに行く人でいっぱいだ。

一階に着き、押し出されるようにエレベータを下りた、瞬間。

「……淫乱」

小さな声が聞こえ、足が止まった。
エレベータからさほど離れず、真ん中に立ち止まっている私たちを、乗り降りする人たちが邪魔そうに見ている。
震える手で駒木さんの袖を掴み、見上げた。
目のあった彼は、小さく頷いてくれた。

「とりあえず、離れよう」

私を軽く支え、駒木さんは歩いていく。
会社を出て少し歩き、近くのビルに入る料亭に彼は私を連れてきた。

「ここだと、個室だから」

うん、うん、と黙って頷き、案内された部屋に一緒に入る。

「大丈夫、僕がいる」

私を抱き締め、駒木さんが安心させるように背中をぽんぽんしてくれる。
それで幾分、落ち着いた。

おしぼりなどを持ってきた仲居に、メニューも見ずに駒木さんはお昼のコースを注文した。

「男の声だったね」

黙って頷き、同意する。
女性なら森田さんかとも思えるが、あれは男性の声だった。

「……たぶん、昨日と同じ人……だと、思う」

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