意地悪警察官さんは、同担拒否で、甘々で。 ーワケアリ暴君様と同居していますー

第14話


〇夕方~夜 大河とあいの部屋 リビング

抱きしめあったままのふたり。
あいは大河に言われた『跡取り息子』の話がうまく消化できず、ぽかんとした顔をしたまま。

あい「あべけいび、って……たくさんCMとかもしてる、あの……?」
大河「そー。あれな、〝♪絶対安全、安心毎日〟ってやつ」

CMソングを歌ってみせる大河。それでもまだぽかんとしていたままだが、その歌を聞いて意識をとりもどすあい。

あい「……大河さん、お歌下手……?」
大河「うるせーよ……!」

少し笑い混じりで言ってから、改めてあいを抱きしめたまま、耳元で囁く。

大河「……オレは、さ……警察官になりたくて、家出してきたんだよ」
あい「家出……!?」
大河「家のやつらに言えば、絶対にそんなもん許可されっこねえ、一人息子だからな。昔っからの大企業の息子なんて、やりたいことができない事の方が多いんだよ」




○回想 子供時代の大河

幼い大河、幼稚園で書いた将来の夢の絵を父親に見せる。
だが、父親はそれを見て激高する。

大河父「警察官になりたい、だと!? お前はうちの跡取りの自覚がないのか!? お前の将来はこの会社を継ぐ以外の道はない!」

目の前でビリビリにされていく、クレヨンで描いた絵を見つめて、表情をなくす大河。



別の場面、小学生になった大河。サッカーボールを抱えて、また父親の前に立っている。
表情は硬く、顔面蒼白。

大河父「お前は何度言わせるんだ! 精神と肉体を鍛えるための運動は許可していたが、……サッカー選手を目指したい、だと? いいか、お前そんな戯言を言い続けるならサッカーもやめさせるぞ!」

泣いてすがっている小学生の大河を、振り切って出ていく大河父。


大河父「お前は、約束された将来を反故にする気か!」
何度も叫ばれて、耳を覆ってうずくまる大河のカット。


また別の場面、高校生になっている大河。これまでの何をしたいと言っても否定される人生のせいで、すっかりやさぐれていた。

喧嘩のあと怪我をしている様子の大河、その傷を消毒しているのは高校時代のロウ。
場所は空き教室。

ロウ「……保健委員ってさ、別に……手当してあげるのが仕事じゃないんだよね~」

のんびりとした口調で、でもテキパキと消毒して絆創膏をはってやり、ガーゼを当ててやっている。

大河「……だけど、保健委員なら何も言われずに保健室からこーいうの取ってこれんだろ。センコーに見せたら絶対なんか言われるっての、こんな傷」
ロウ「まあね」

淡々と手を動かし続けるロウ。

大河(……嫌だと言ってみろ、殴って従わせてやる……)
ロウ「ねえ、殴ったって無駄だよ。オレには意思っていうものがあって、それを暴力で歪めようとするのは……下劣な行為だ」

まるで自分の心を見透かしたような言葉にドキっとする大河。
それと同時にその言葉に、ふと自分の幼い頃と父親の姿が頭に思い浮かぶ。

大河(……意思を捻じ曲げようとすることは、下劣な行為……)

全く別のことを話しながらも、大河は自分のされていた事が当たり前や仕方ないことではなかったと言われたような気持ちになる。

大河「……お前、変なヤツだな」
ロウ「君ほどじゃないでしょ~~~」




別の場面、すっかり打ち解けた様子の高校時代のロウと大河。
もう大河は怪我もしていない。制服もちょっとちゃんとしている。

目の前には進路希望調査票が広げられている。
それが真っ白なままの大河の前の席に座っているロウ。振り返って、ちょっと不思議そう。

大河「……希望、なんて持ったところで何にもならねえのによ」
ロウ「あれ? 昔は警察官に憧れたって言ってなかった?」
大河「…………ガキの頃の話だぞ」
ロウ「それは関係ないよ! 似合うと思うよ、大河は警察官。強くて、足が早くて、人に寄り添った正しさがわかる」

ロウの言葉に、思わず嬉しくて顔が緩みそうになったのをこらえてしかめっつらをする大河。

大河「オレに、……なれるわけがない」
ロウ「なんで? ……なれるよ、大河なら。立派な警察官に」

ロウにまっすぐ見つめられて、目を見開く大河。




また別の場面。(3話での回想と同じシーン)
ヤンキーぽい着崩した制服の大河に、ロウがスマホの画面を見せる。ロウは制服はきっちりただしく着込んでいる。

ロウ「この前、妹と一緒に水族館行ったんだ」
大河「へー……」

ロウとあいが仲良く写っている。あいはすごい笑顔。その写真を見るロウも、優しい笑顔を浮かべている。

大河「妹とずいぶん仲がいいんだな」
ロウ「うん、オレの人生で一番大事かも……年がまあまあ離れてるから、かもしれないけど……。かわいいだろ」
大河「……まあ、かわいい、んじゃあねーの」

大河、優しい表情のロウと写真の中のあいを見つめる。心臓がドキッと鳴る。

大河(お前と、お前が大事にしてえもの、……オレが守ってやれる様になりてえな……)

(回想終了)


大河「……ずっと、好き、だった……お前と、ロウのこと……お前ら兄妹を絶対に守りたいと思ってた、……だから警察官になってよ、それで……そうなりゃあ、守ってやれると、信じてたんだ」

大河がぽつりとつぶやく言葉に胸がギュッとしめつけられるあい。

大河「だが……。まだ、オレ一人の力は全然足りなかった。……これ以上そばにいたら、また傷つけられるかもしれない。……オレにはまだ守りきる力がないから、……どうか、待っててくれ」
あい「……私、待ってるから、ずっと待ってるから、……大河さん、また会えるときに…もう一回告白していいですか?」
大河「……っ、」

大河が、あいの耳元で息を飲む。

大河「……ありがとよ、でも……お前の年頃だ、周りにいいやつも多いだろうし。……いいか、無理する必要はないんだ、約束もなくていい」
静かに首を振るあい。

あい「……ずっと、待ってる……!」

無言でぎゅっとあいを抱きしめる大河。
部屋に差し込む夕日が、二人を照らしていた。

そして見つめ合うふたり、顔が近づきあう。
キスもしてしまいそうな距離になってから、大河が頭を上にずらして、あいのおでこにキスを落とした。
それから、優しい笑顔であいを見つめる。

あい(……ずるいなあ、大河さん……)

あい[モノローグ](……こうして、私と大河さんの同居は終わったのだ)


あい[モノローグ](大河さんは、自分の立ち位置と、過去に向き合う、そう言い残して……遠くに行ってしまったのだ)




○ロウと彩の部屋にて

あい[モノローグ](高校生活の残りの日々は、私のことを心配してくれた彩さんとロウくんのマンションにお邪魔して学校にかよった。二人ともすっごく優しくて、一緒に過ごすのは楽しかった)

あいのモノローグの下に、彩とロウと過ごした日々のカットが入る。

あい、彩とロウと過ごしているカット。ロウが出してくれる料理を大喜びで待っているあいと彩。
一緒にキャンプに行ってニコニコしている三人のカット。
あいと彩だけで遊園地に行っている写真を送られて、ロウが研究室の中からうらやましくて泣いているカット。


あい[モノローグ](大河さんは、今どこで何してるかもあんまり教えてくれなかった。でも、毎日じゃあなくても、LINOは毎日送ってくれた)

スマホ画面のカット。あいの携帯の大河とのやり取りの画面。
外国の風景や、日本では見ないような食べ物の写真。それに野良猫の写真も。

あい[スマホ画面]「これどこなんですか?」
大河[スマホ画面]「秘密」

あい[モノローグ](絶対、居場所は教えてくれなかったけど……私は、周りの人の優しさで、元気に過ごせていたのだ)

モノローグに続いて、再びスマホ画面のカット。

あい[スマホ画面]「大河さん、会いたいな」
大河[スマホ画面]「まだ、ダメ」

スマホ画面を見つめて寂しげな顔をするあい。

あい(……会いたい、な……)


あい(満たされているはずなのに、何か、心からなにかが欠けたような気持ちだけが残ってしまっていた――)
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