振り解いて、世界


 舌を絡ませながら、お腹や腰の辺りを撫で上げられている間にどんどん服を脱がされていく。
 手際よくブラのホックを外され、腕からストラップがするりと抜けると、大きな手のひらが膨らみの足りない胸をすっぽりと包み込んだ。

「綺麗」
「うそ。小さいから、嫌なの」

 胸を隠そうとする手を、セレンに掴まれる。
 両手の自由が利かなくなって、わたしの意思とは関係なく突き出された無防備な胸に、しっとりとしたセレンの唇が触れた。

「ほんとだよ。想像してたより、ずっと綺麗」
「え、想像してたの? いつ、どこで!?」
「秘密」
「秘密って」

 セレンは起き上がり、セーターやカットソーを荒く脱ぎ捨てた。
 引き締まった身体が露わになって、むわりとした色香が漂ってくる。
 お腹の辺りがキュンと疼いて苦しい。
 この人に抱かれたいと身体が勝手に求めているみたいだ。
 軽く乱れた波打つ黒髪の隙間から、渇望をむき出しにした視線に貫かれ、身体の芯がふつふつと熱くなる。

「わたしもセレンに触っていい?」
「聞かなくてもいいよ。全部、いろ巴のものだから」

 セレンは両肘をついて、わたしの頬に唇を寄せた。
 掠れた低い声に熱い吐息が重なり、耳朶がとろけていく。
 経験したことのないまどろっこしい空気の中で、わたしはどうにかギリギリで正気を保っていた。
 これ以上深く触れ合ったらどうなってしまうんだろう。
 一瞬、不安が過ぎるも、今はセレンに触れたい気持ちがずっと大きい。 
 ドキドキと高鳴る鼓動を抑え、二本の指でぎこちなく鎖骨をなぞると、セレンの身体がピクリと小さく跳ねた。

「触り方、えろ。煽ってる?」

 セレンが探るような目つきで微笑む。

「え!? 違うよ、本当に触ってもいいのかなって思ってたら指が震えちゃって……そしたら、あの」
「そんなに焦らなくてもいいよ。いろ巴がその気だってよく分かったから」
「人を変態みたいに言わないでよ。セレンの方がもっとえっちじゃん!」
「気付くのが遅いな。今からもっとやらしいことするよ」

 長い指が、わたしの胸から下腹部を辿っていく。
 両足を開かれて、身体の中心がまたうんと熱くなった。
 もどかしい刺激でお腹の底に熱気が溜まり、それが大きな塊になって、ずっしりとした重みを持つ。
 気持ちがいいのに、すごく辛い。
 もしもわたしが一度でも経験していたら、この重みから逃れる方法が分かるんだろうけど、悲しいかな何も分からないせいでとにかく耐えるしかなかった。
 セレンの腕にぎゅっとしがみつく。

「セレン……それやだ」
「痛い?」
「ううん、気持ち良すぎて苦しいの。どうしたら楽になる?」

 恥ずかしいことを聞いている自覚は十分にある。
 けれど、もう限界だった。
 熱くなった瞳で見上げると、セレンの喉が上下したのが目に入った。

「じゃあ、もっと気持ちよくしてあげる」
「な、何するの」
「ここ、舐めていい?」
 
 セレンが軽く目配せをする。
 あられもないその場所に、わたしは声を上げた。

「だめーーー! 絶対だめ! 無理、ほんと無理! お願い、それだけはやめて!」
「すぐに気持ち良くなるよ」
「いや無理! まじで嫌だ。気になって、それどころじゃないよ。わたしにはハードルが高すぎる。絶対に無理!」
「そんなに言うなら、また今度にしようかな」

 セレンは意地悪く笑いながら、わたしの両足を大きく割って入った。
 ベルトに手をかけたところで、これから何をするのか分かったわたしは、慌ててクッションを抱いた。
 閉じた瞼に、ありったけの力を込める。

「見ないの?」
「見るわけないじゃんばか!」
「そのうち慣れるよ。見たら欲しいと思うくらい」

 セレンの声が、えらく楽しそうで腹が立つ。
 わたしはクッションに顔を埋めて、セレンに見えないように頬を膨らませた。

「こんな時まで、からかうなんてひどいよ」
「いろ巴が可愛いくて」
「……うそだ」
「ちょっと喜んでる」
「うるさいな! やっぱりからかうのが楽しいだけじゃん」
「楽しいのは、いろ巴のことが好きだからだよ。何してても可愛い。知れば知るほど好きになっていく」

 セレンはわたしの太ももを大胆に持ち上げると、両足の付け根に身体を押し付けた。
 硬くて大きい何かが当たって、思わず身じろぎそうになる。

「おれ、めちゃくちゃ興奮してるよ。いろ巴が欲しくてたまらない」
「……だけど、」
「いろ巴の、もっと深くて誰も知らないところが知りたい。じゃないと、おさまらない」

 抱いていたクッションを取り上げられ、ベッドの端に投げられる。
 隠すものがなくなって両手で顔を覆ったわたしを、セレンはうっとりとした表情で見つめた。

「おれだけに教えて」

 懇願され、身体の奥からじわりと熱が滲む。
 わたしだってセレンが欲しい。
 けれど言葉にするのが恥ずかしくて指の間から無言で見つめ返すと、セレンは艷やかに口角を上げた。

「初めて、もらうよ」

 ゆっくりと腰を沈めていく。
 わたしに気遣いながら、少しずつ押し進めてくれているのが分かった。
 裂けるような痛みはあるけど、思っていたほどじゃない。
 セレンがちゃんと中を解してくれたおかげだろう。
 ゆるゆると動き始めた頃には、痛みなんてこれっぽっちもなくなっていた。

 うっすらと汗ばんだセレンの背中に腕を伸ばす。
 しっとりとした肌が絡みつき、セレンをさらに近く感じた。
 室内に響き始めた水音に煽られて、自分でも知らない甘い声が漏れ出る。
 腰を掴まれて揺さぶられながら、荒くなる息を抑えてセレンを見上げた。

「好き……だよ」

 突然腕を引っ張られ、起き上がる。
 セレンの上に座らせられると強引に唇が重なった。
 貪られるようなキスをした後、下から突き上げられる激しい律動が始まり、セレンの首に腕を回してしがみつく。

「おれも好きだよ」
「わたし……も」 
「おれの、いろ巴の中に入ってるの分かる?」
「う……ん」
「可愛い」

 ただ一点に意識が集中する。
 お腹の底の熱気がうねりを伴い、全身を駆け巡った。
 もうだめだ。
 身体に収まりきらないくらいパンパンに膨れ上がって今にも弾けてしまう。
 それなのに、セレンはわたしの首すじに舌を這わせて刺激するのをやめてくれそうにない。

「だめ、お願い。気持ち良すぎて……頭が変になっちゃう……!」
「それでいいよ、全部おれに見せて」

 セレンの頬は熱く、掠れた声からは明らかに余裕がなくなっている。
 気になって身体を離してみると、セレンと視線が絡まり合った。
 鈍い光が揺らめく瞳に、ほんのりと赤くなった頬。
 つるりとした肩やうなじには雨粒のような汗が滲んでいる。
 
―――こんなセレン、初めて見た。

 恐ろしいくらい綺麗でなまめかしい色香にあてられて、昂ぶる気持ちを抑えられない。
 わたしのせいでこうなっているんだと思うとたまらなく愛おしくなって、わたしから唇を重ねてみる。
 すると、セレンは揺さぶるのをやめて小さく吐息を漏らした。

「今、それすんの?」
「だって……」
「いきそうだった、危なかった」
「嫌だったってこと?」
「違うよ。めちゃくちゃ嬉しかった。もう一回して」
「いいの?」
「いいよ、して」
 
 セレンの頬に両手を添えてそっとキスをすると、さらに強く腰を打ち付けられる。
 欲望を目一杯ぶつけられているみたいで、嬉しくて仕方がなかった。
 激しく揺さぶられながら、最後に残っていた恥じらいを手放す。
 身体がふわふわと軽くなって、わたしはくたりとセレンにもたれかかった。 
 
 
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