鬼の子



「いい彼氏持ったなあ」

「・・・彼氏じゃないです」

「えっ?付き合ってないの?」


そういえば、私達の関係ってなんだろう?好きだなんて言われたことない。私が勝手にお見舞いに来て会いにきてるだけだ。

「私が勝手に会いに来てるだけでなので・・・。
今は、こうやって好きな人に会えるだけで・・・、片思いで充分なんです」

「えっ!甘酸っぱい〜」

看護師さんと神山さんは顔を合わせてニヤついている。甘酸っぱい?甘酸っぱいってなんだ?


私の片思いは、甘酸っぱいの?
両思いになりたいという"欲"がない訳ではない。彼の好きな人になれたら、どれだけ嬉しいだろう。


"欲"にはキリがない。少し前の私の状況と比べたら、今の生活は途轍もなく幸せだ。これ以上何か望んだらバチが当たりそう。

自分の中の"欲"に蓋をして、片思いでいいと思ったんだ。綱君が死んでしまったら、片思いすら出来なくなってしまうのだから。

世間的には、片思いは辛いという印象だけど、私にとっては、片思い出来る"今"が幸せなのだ。

好きな人が生きていて、片思い出来る。ということが、どれだけ幸せなことなのか、忘れたくない。

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