カクテル

「・・・・君嶋さん、相談させて貰えますか?」

マスターは真剣な眼差しで僕を見つめた。

「麻理さんの事ですか?」


「はい、麻理は私の昔の恋人の忘れ形見なんです」

意外な告白に胸がざわつく。


やっぱり、
ただの店主と客の関係ではなかったのか、

それでマスターの麻理さんに対する気遣いが腑に落ちる。
麻理さんはそれを知っているのだろうか、

「彼女を初めて見た時、あまりにも昔の恋人にそっくりでしたので、気になって麻理さんに母親の名前を訊ねたんです。

私の勘は当たりました。

しかし残念なことにその恋人は、麻理さんが小さい時に病気で亡くなったそうです。

ですから、私は恋人にそっくりな麻理さんが可愛くて仕方がない、娘のように時には昔の恋人のように思えてならないんです。

そんな彼女が今付き合っている男、何故あんな男を好きになったかは分かりませんが、自己中心的で女好き、仕事は出来るかもしれませんが男としては最低だ。
なんとか別れさせてやりたい。

君嶋さん、あなたみたいな人と添い遂げさせてやりたかった」

「僕なんかがですか?」

「はい、この前麻理さんがあなたを連れて来店された時、いつもは弱い自分を一切見せない彼女が、"今日はあなたに介抱してもらうから"って言ったんです。

あなたにだけは、甘える事が出来て本当の自分を曝け出したんです。

麻理さんのあんな姿は見た事ないし、付き合ってる彼氏にも見せたことがないと思います。

麻理さんは、きっとあなたの事が好きです。

あなただったら、弱い自分を曝け出しても、
何一つ文句も言わず受け止めてくれる
そう考えてる筈です。

君嶋さん、私の勝手なお願いですが麻理さんを幸せにして貰えませんか?」

マスターの気持ちは痛い程わかる、僕にとっても麻理さんは、尊敬する先輩以上に気になる存在だった。

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