カクテル

映画を観終わっても、彼女は何も言葉を発しなかった。余韻に浸っているわけじゃない事は明らかだった。

映画館を出て二人無言のまま、手も繋がずに歩いた、

通りすがりの喫茶店の前で立ち止まると、麻理さんは指を差して僕を促す。

喫茶店に入り、向かいの席に座って初めて麻理さんの顔をまじまじと窺うと、自分の安易な選択を悔いた。

暗く沈んで、目も合わせようとしない。

「麻理さん、変な映画を選んでしまってごめんなさい」

「・・・・」


黙ったまま返事もしてくれない、
急に悲しくなった、

「麻理さん、何か言って下さい、、」


「、、圭悟は、私と彼女とどっちを選ぶの?」

思わず涙が溢れそうになった、

麻理さん、、お願いですから
そんな事言わせないで下さい。


僕が答えに困っている様子を見て、
やっと口を開いてくれた。

「圭悟は優しいね、答えは明らかなのに私を悲しませない為にわざと言わないでしょ」


「僕は、、麻理さんも大好きですから」

「ありがと、それだけで十分だからね」


だめだ、言葉で上手く表現できない、 

麻理さんも彼女も、どっちも大切にしたい、
どっちも側に居て守ってあげたい、

こんなにも僕を必要としてくれているのに、、



あー、なんか話題を変えたい、

「麻理さんはテレビ見ないんですか?」

「テレビ? あぁ、引越しの時にね、アルバイトの男の子が落としちゃって泣きそうな顔してるからさ、貰ったやつだから気にしなくて良いよって許してあげたの」

「そんなの弁償して貰わないと駄目ですよ、引越し会社も保険に入ってるんだから、」

「会社は払うだろうけど、あの子のバイト代も減らされるよ、まだ学生みたいだったから可哀想じゃない、汗をいっぱい掻いて頑張ってたから」

「麻理さんも優しいじゃないですか」

「これがね、圭悟みたいに食べちゃいたいぐらい可愛い子だったんだー」

そんな理由ですかー
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