私を包む,不器用で甘い溺愛。

俺は2人が寄り添う姿を見たくなくて,もし俺に見せられないような事をあの家でされたらと思うと,帰りたくなくなって。

だからね,俺は誰にとっても合法的な方法で,少しだけ離れる時間を取ろうとしたんだ,ありす。

これ以上ない,誰にとっても幸せな道のはずだった。

受験もあるし,塾に通いたい。

たった一言,そう言ったんだよ,ありす。

タイミング的にも,逃げだとあの2人は気付いたさ。

義母の方はショックを受けたような顔をして,そのあとなぜだか俺を痛ましげに見つめた。

その視線が気に入らなくて,俺はにこりと返したよ。

父親は自分の蒔いた種のくせして,それ以上なにを望むのか,頭痛でもするような顔をした。

だから,頷くと思ったんだ,それでも。

なのに,俺の意思を汲むフリをして,あの父親は寄りにも寄って家庭教師をつけると言った。

冗談じゃない。

魂胆だって丸見えだ。

近くに置いて,ナカヨクなって貰いたかったのさ。

俺の気持ちは丸無視で。

そのくせ俺のため,義母のため,ひいては家族のため。

そんなの全部嘘さ,年下の女に惚れ込んだ罪悪感を一刻も早く解消したい自分のためだ。

家庭教師なんて,お金だって普通より沢山掛かる。

そう反対したけど,先に勉学を盾にしたのは俺の方で。

頭だって悪くなかった,寧ろ褒められるくらいだったのに。

しかも何を思ったか,俺にあんまりだと義母まで俺の味方面をするものだから,頭に来て



『ありがとう,父さん。食事が寝る直前になるまで頑張るよ』

『食事は一緒にとるんだ,家族なんだから』

『ちょっ,とあなた……! いくらなんでも強引……』



家族なんかじゃない。

それは父さんにとってでしかない。
 
あなたなんて,その呼び方は母だけのものだ。
< 41 / 119 >

この作品をシェア

pagetop