迷惑をかけた相手になぜか溺愛されたようです。

「おはようございます。良く眠られましたか?」


リビングの奥に続いているキッチンのほうから、玲也の声がした。


「お…おはよう…ございます。橘さん。」


玲也は私の顔を見て微笑んだ。


「蓮と同じ橘だから、玲也で良いですよ。簡単なものだけど、朝食できたから一緒にいかがですか?」


この香ばしい匂いは玲也が朝食を作っていたのだ。
次の瞬間、いつもの習慣でまだパジャマだったことに気づき、パジャマを腕で隠すようにして唯は赤面した。


「は…はい。ありがとうございます!すぐに着替えて参ります。パ…パジャマで失礼いたしました!!」


唯の慌てる姿を見て、玲也はクスッと笑いながら話し出した。


「別にパジャマでも構わないのに…ここでは気を使わないでくださいね。」


気を遣うなと言われても、誰もが目を引くような美男子である玲也の前で、リラックスなんてとても無理だ。ましてやパジャマ姿を見せてしまうなんて大失態だ。

唯は急ぎ服を着替えて、キッチンへと向かった。
すると、丁度コーヒーが出来上がり、カップに注ごうとする所だった。


「あ…あの…コーヒーは私がカップに注ぎます。少しは手伝わせてください。」


唯の申し出に、驚いたのか少し目を大きくした玲也が振り返った。


「座っていてくれれば良いのですが…では、せっかくなので、そのマグカップにコーヒーを入れてください。ミルクが必要なら冷蔵庫にありますよ。僕はブラックでお願いします。」

色違いのお洒落なマグカップを並べてコーヒーを注ぐ。
なんだか恋人の家に来たようで顔が熱くなる。

キッチンとリビングのちょうど真ん中に、少し高めのカウンタ―テーブルがあり、玲也はそこに朝食を並べた。

トースト、スクランブルエッグ、ボイルしたソーセージ、サラダにはカリカリのクルトンと粉チーズのようなものが乗っている。
ちょっとしたホテルの朝食みたいだ。

カウンタ―は広く、向かい合って座れる。
玲也の用意してくれた場所にコーヒーを運びながら席に着いた。


「昨日は蓮がご迷惑をお掛けして申し訳なかったですね。しかも、あいつときたら昨夜のうちに彼女の所へ行ってしまったのですよ。…まったく、いつまでも子供の弟を許してください。今回の件は、蓮の兄として私が責任を取ります。」


玲也は私にお詫びを伝えると、その場で立ちあがり頭を下げたのだ。


「も…もう、謝らないでください。ここに居候させてもらうだけで有難いです。」

「ありがとう…唯さん。では朝食が冷めないうちに食べましょう。こんなものしかできませんが。」


玲也に“唯さん”と呼ばれると、なんだか心臓がドクンと跳ねて落ち着かない。
顔が熱くなるのを玲也に気づかれぬようマグカップに手を伸ばした。

コーヒーにミルクを入れたカフェオレをゴクリと一口飲み、サラダにフォークを刺した。
口に入れると、少し焦げた香りがして、アクセントのクルトンと粉チーズが、和風ドレッシングと不思議にマッチしていて、とても美味しい。


「このサラダ、美味しいですね。」


玲也は唯の言葉を聞いて嬉しそうに話し出した。


「うん、この和風ドレッシングは僕のお気に入りなんだ。フランスに居る時も日本から取り寄せていたんだよ。この醤油ベースがたまらないよね。僕の必須アイテムなんだ。和風味はやっぱり最高だね。」


サラダもパンも全て美味しいが、こんな素敵な玲也を前にして食べると、さらに美味しさが増しているようにも感じる。
昨日よりもカジュアルな髪型や服装も、とても爽やかで心臓が大きく跳ねあがる。

朝食を終えた唯は、玲也と一緒に後片付けを済ませた。
なんだか一緒に片付けをすると、新婚みたいに感じて心臓がうるさく鳴り出した。
直人と付き合っていた時、一緒に食事もしたけれど、こんな気持ちになったことは無い。
すごく不思議な感じがする。玲也だからなのだろうか。

そして、今日は土曜日なので、唯は買い物に行こうと考えていた。
水没して使えなくなったものを買う必要があるのだ。

唯が外出する用意をしていた時、突然玲也が近づきながら話し掛けて来たのだ。


「唯さん、もしよかったらちょっとこの後お時間ありますか?」







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