推しは策士の御曹司【クールな外科医と間違い結婚~私、身代わりなんですが!】スピンオフ
 あぁ、そうだ。心の傷を癒して欲しくて、専務は私を誘っているんだった。基本に忠実にならなきゃ。私の心の寂しさなんてどうでもいいでしょう。バカな私だ。
「彼女はどんな方でした?」高速を降りての信号待ちで聞いてみるけど、専務の表情は変わらない。
「あっ、その、すいません。答えなくていいです。ただ、話をして楽になるなら、吐き出して話をした方がいいのかなとか思って、私にしかしらない失恋話なら、私にぶつけて楽になるなら、その……」
「ありがとう」
「いいえ、思い出してつらいなら、話さなくていいので……」
「明るい人でした」らしくなく、ボソッとした声で専務は話始めた。

「明るくて優しくて、キリっとしていて、思いやりがある人でした」
 声にハリがない。淡々と話す声が悲しく聞こえてしまう。
「偶然の出会いでした。うちのホテルのカフェで彼女はお見合いをしに来て、それも彼女の妹さんの代理で。変な話でしょう?そしてお見合い相手を僕と間違えて僕の前に座って話が弾みました。表情がクルクル変わって、見ていて飽きない子でした。最初に素敵なホテルですねって褒めてくれて嬉しかったですね。カフェで出してるバカラのグラスに驚いてました。グラス越しに庭園を見てうっとりしていた姿が可愛らしかったです」
「そんな出会いだったんですか?」驚いて聞くと、思い出したように笑っている。
「ええ、変でしょう?でも、そんな出会いもあるんだなぁって、今となっては楽しい思い出です」
「あの」
「なに?」
「つらかったらいいですからね」もう一度そう言うと、専務は「咲月さんのおっしゃる通り、一度吐き出した方がスッキリするかもしれないので」と返事をした。
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