茜空を抱いて



「……俺は、そうは思わない」



踊り場にわずかに響いたその声。いつもより低くて、ユウのものだと理解するのに数秒がかかる。
隠れようとしている夕日を、冷えた瞳で見据えているユウ。


初めて見る、あなたの表情。



『………ひとりじゃ、生きてけないって?』

「……うん、そう」



聞き返せば、やっぱり低い声で返事をする彼。
いつもと対照的なほど、はっきりとした強い声だった。


ユウのことを初めて少し、怖いと思った。



『………、怒ってんの?』

「……あ、いや、別に」



随分と小さな声を発した私に気がついたのか、彼が一度瞬きをする。
あっという間に、その視線に戻ってきた暖かさ。



「……ごめん。言い方きつかったかな」

『……別に、なんとも思ってない』

「……それならよかったけど」



ユウの表情はもう元通り。一瞬見え隠れしたのは、もしかしたら彼の本来の姿なのだろうか。
そう思いながらもどこか恐ろしくて、私はそれ以上追求できなかった。



「そうだ、ねえアミ」



そして、さっきの雰囲気が嘘のように、柔らかく私に語りかけるユウ。



『………なに』

「うん、この世界っていうのは、君の想像よりもずっとキラキラしてると思うよ」

『……急に何の話』



憎まれ口を叩く私に、彼は小さく笑い声をあげて、そっとその視線を絡める。



「アミの世界の話。思ってるよりもずっと暖かくて、優しいところなはず」

『………信じらんないし』

「ん、わかったよ。それじゃあさ」



ユウが少しだけ身を乗り出して、私の顔を覗き込む。
距離が近付く、その瞳には戸惑う私が映っている。



「俺と見つけよう」



その声は、今までのどの瞬間よりも優しくて。



「俺の言ったことが本当かどうか、一緒に過ごしてく中で見つけてみない?」



今までのどの瞬間よりも、魅力的で心に沈み込んだ言葉だった。



どう?って、そんなに柔らかく聞かないでほしい。
慌てて逸らしたこの視線が、ふらふら彷徨う。
不器用に小さく頷いた私を見て、あなたは最後に小さく呟いた。



「アミはいい子だ」

「心配しないで、俺が導くから」



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