茜空を抱いて
***



秋、私はユウのことをまだ何も知らなかった。



ユウはいつだって私の話を聞いてくれるけれど、自分の話は一切しない。一緒にいる時間が増えれば増えるほど、私はそんな彼のことを知りたいと思うようになった。



『ユウ、あのさ』



ある日の夕暮れ、コンビニに行くというユウの後を追いかけ、ふたりで歩いた地元の街。
縮まらない距離を埋めるように、声をかけた。



『大学ってどんなとこ?』

「ん、大学?」

『そう、わかんないから知りたい』



ユウが毎日通っている大学。そこを知ることができたら、少しだけでもあなたに近付ける気がして。
ユウがそっと、微笑んだ。



「大学は、自由な場所だよ」

『……自由』

「そう。授業もだし、課外活動も、それからご飯を食べるところだって、全部自分で選べる」



一度、私を見下ろしたその温和な瞳。
また心臓が小さく動く。誤魔化すように、目を逸らした。



『……なんか、良さそう』

「うん、いいところ。その分、自分の責任が大きいんだけどね。アミは大学が楽しみ?」

『………ちょっとだけね』



大学が楽しみとか、思ったことはなかったけれど、とりあえず頷いてみる。
ユウが、そうだよね、と穏やかに呟く。私はまだそれだけじゃ満足できなくて、更にユウに質問をする。



『じゃあユウは、大学でどんなことしてんの?学部?とか、そーいうの』



知りたかった、あなたのことが。
これにもすんなりと答えが返ってくると思っていた私は、短い沈黙の後、ふと見上げたその表情に面食らう。



『………ユウ?』

「……そんな、言うほどのものじゃないから」



地面に落とされた視線は悔しそうな色を含み、唇は小さく噛まれている。何かに耐えているような、何かを押し込めているような、複雑な感情が見え隠れしていた。

そしてまた、私には何も聴かせてはくれない。



『……教えてくんないの?』

「………帰ろうか、アミ」



私の方を振り向かず、あっという間に歩き出したユウ。冷たさすら、感じられる。


あなたのこと、知りたいのに。


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