茜空を抱いて
君のときめくこと
***
高校2年の冬、担任から卒業後の進路を問われた。
何ひとつ夢がなかった私は、考えてみます、とだけ返事をし、今日もこの街に帰ってくる。
誰かに相談したいけれど、母親にはしたくない。
そんな思考の末に行き着く先は、いつだってあなただった。
『私、どうしたらいい?』
ふたりでアパートへと向かう、夕暮れの道。
考えがまとまらず、唐突にそんなことを言った私を、ユウはちらりと一瞬見下ろした。
さすがに意味のわからない発言だった。言い直そうにも相談に乗ってほしいだなんて、そんな言い方はできない。
言葉を探している私の様子を見たユウはそのうち、いつもの穏やかな声で囁いた。
「聴くよ、全部話してみて」
ねえどうして、あなたにはこの気持ちが全部わかるの。
どうしてあなたはいつも、そうやって私の心の真ん中に触れるの。
驚いて数秒戸惑った直後、私の喉は我慢の限界を迎えたかのように、思っていたことを一気に吐き出した。
『………今日担任に進路どうするんだって聞かれた。そんなの正直今まで考えたこともなかったし、これがやりたいみたいなのもない。親とだってそんな話したことない。これからもしたくないけど、でも、なんか考えないとダメなのはわかってて』
少し先を歩いていたユウが、気がつけば私の真横を歩いている。
そのことを意識した途端、言葉が喉奥に詰まって心臓を揺らした。
『……で、どうしたらいいのか、よくわかんない』
「……進路って、難しい選択だよね」
『うん、私、何になりたいんだろ』
溢れた言葉にいつもの鋭さがないこと、自分でもわかってた。
ユウもどうやらそれに気がついたらしく、私の方に少しだけ屈み顔を近付ける。
「ねえ、アミは何してる時が1番楽しい?」
『え?何、急に』
「うん、ちょっと考えてみて」
「これしてると楽しいとか、これが好きとか、心が自然とときめくなって思うこと。それが見つかるときっと、なりたいもの、したいこと、見つけやすいと思う、俺は」
ユウが珍しく、言葉を多く紡ぐ。
私は一言も取りこぼさないように、その瞳を見つめ続ける。
『………ときめくこと』
「そう。なんだっていいよ、食べることでも、音楽を聴くことが好きっていう気持ちでも。何か思い浮かぶ?」
『………ないよ、そんなの』
ない、ないに決まってる。
ユウの言葉が琴線に触れると同時に、空っぽな自分に泣きたくなる。
そしてきっと、ユウはそれもお見通しだった。
「………それなら一緒に探そう」
優しく溢れたその声が、私の鼓膜を震わせる。
「俺も手伝うから。どう?」
眼鏡の奥、柔らかな光がその瞳を彩る。
『………ユウって、不思議な人だよね』
「うん、そうかもしれないね」
私がなかなか素直になれないことも、あなたはきっと、全部わかってたよね。
高校2年の冬、担任から卒業後の進路を問われた。
何ひとつ夢がなかった私は、考えてみます、とだけ返事をし、今日もこの街に帰ってくる。
誰かに相談したいけれど、母親にはしたくない。
そんな思考の末に行き着く先は、いつだってあなただった。
『私、どうしたらいい?』
ふたりでアパートへと向かう、夕暮れの道。
考えがまとまらず、唐突にそんなことを言った私を、ユウはちらりと一瞬見下ろした。
さすがに意味のわからない発言だった。言い直そうにも相談に乗ってほしいだなんて、そんな言い方はできない。
言葉を探している私の様子を見たユウはそのうち、いつもの穏やかな声で囁いた。
「聴くよ、全部話してみて」
ねえどうして、あなたにはこの気持ちが全部わかるの。
どうしてあなたはいつも、そうやって私の心の真ん中に触れるの。
驚いて数秒戸惑った直後、私の喉は我慢の限界を迎えたかのように、思っていたことを一気に吐き出した。
『………今日担任に進路どうするんだって聞かれた。そんなの正直今まで考えたこともなかったし、これがやりたいみたいなのもない。親とだってそんな話したことない。これからもしたくないけど、でも、なんか考えないとダメなのはわかってて』
少し先を歩いていたユウが、気がつけば私の真横を歩いている。
そのことを意識した途端、言葉が喉奥に詰まって心臓を揺らした。
『……で、どうしたらいいのか、よくわかんない』
「……進路って、難しい選択だよね」
『うん、私、何になりたいんだろ』
溢れた言葉にいつもの鋭さがないこと、自分でもわかってた。
ユウもどうやらそれに気がついたらしく、私の方に少しだけ屈み顔を近付ける。
「ねえ、アミは何してる時が1番楽しい?」
『え?何、急に』
「うん、ちょっと考えてみて」
「これしてると楽しいとか、これが好きとか、心が自然とときめくなって思うこと。それが見つかるときっと、なりたいもの、したいこと、見つけやすいと思う、俺は」
ユウが珍しく、言葉を多く紡ぐ。
私は一言も取りこぼさないように、その瞳を見つめ続ける。
『………ときめくこと』
「そう。なんだっていいよ、食べることでも、音楽を聴くことが好きっていう気持ちでも。何か思い浮かぶ?」
『………ないよ、そんなの』
ない、ないに決まってる。
ユウの言葉が琴線に触れると同時に、空っぽな自分に泣きたくなる。
そしてきっと、ユウはそれもお見通しだった。
「………それなら一緒に探そう」
優しく溢れたその声が、私の鼓膜を震わせる。
「俺も手伝うから。どう?」
眼鏡の奥、柔らかな光がその瞳を彩る。
『………ユウって、不思議な人だよね』
「うん、そうかもしれないね」
私がなかなか素直になれないことも、あなたはきっと、全部わかってたよね。